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いつまでも微妙な評価のイングランド代表・サウスゲイト監督の真価とは? 25年前は母親にも責められた“戦犯”だったが…
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/06/29 17:04
3年前のW杯でベスト4に導いたサウスゲイト。賢明な50歳の指揮官はイングランドの復興に向けて着実にチームを前進させている
ドイツ相手のPK戦敗退の記憶が付きまとう
サウスゲイトが、異例の試合2日前に先発起用を公表して「不可欠な存在」であることを強調したケインは、2018年W杯を前に指揮官自らが指名したキャプテンでもある。選考プロセスの一部でもあった海軍ブートキャンプ参加時、教官たちから「苦しい状況でも仲間を助けて潜り抜けようとする点でずば抜けている」と高く評価された選手が、当時24歳のケインだ。
イングランドにとって今大会初の強豪対決となる6月29日のラウンド16ドイツ戦では、監督が絶対的な信頼を寄せる「ピッチ上の右腕」がますます重要な存在となる。
国内では、平日の夕方5時に始まるウェンブリーでの大一番を前に、「7時頃にテレビをつければ間に合う」とのジョークが聞かれる。延長後のPK戦で勝負がつくということだ。イングランド人らしいシニカルなニュアンスも含まれている。
EURO1996といい1990年W杯といい、母国代表の歴史にはドイツ相手のPK戦敗退の記憶が付きまとう。その意味でも、チーム最高のPKキッカーと言えるケインは欠かせない。
イングランドがW杯で初のPK戦勝利を記録した3年前の決勝トーナメント1回戦でも、チーム1番手の重責を果たしたのはケインだった。
グループステージでは「守備的」とネガティブな見方をされたが、3試合連続無失点は強敵との一発勝負では好材料だ。チェコ戦では、足首の怪我から復帰したマグワイアが、ケインにシュートチャンスを与えたスルーパスを含めて、いまさらのように「さすが」と言われる90分間をこなしてもいる。
ドイツに勝っても負けても、スコットランドを凌ぐ反響を
対戦相手のドイツは、グループFで6得点だが5失点。いつになく組織的なまとまりが感じられないドイツ戦で、ケインの決定力を生かすためにはサウスゲイトがチャンス創造の担い手にスピードを求めるケースが考えられる。
スターリングの他は、警告累積による欠場リスクを避けるためチェコ戦でベンチからも外れたフォデン、そして、マウントが自己隔離(コロナ陽性反応が出たスコットランドのギルモアと試合後に会話、抱擁をしたため)で事前のチーム練習に参加できない事情から、再び19歳のサカがスタメンに名を連ねても不思議ではない。
若い攻撃タレントの扱いには、「ファンタジー・フットボールではない」と言ってきたサウスゲイトだが、グリーリッシュもトップ下で先発したうえ、ポジショニングの自由も与えられていたチェコ戦がそうであったように、イングランドのメディア風に表現すれば「少しサイドブレーキを下げる」用意は常にある。
決勝トーナメント早々に訪れたドイツ戦は、勝っても負けても、スコットランドを凌ぐ反響を呼ぶことは間違いない。だが、サウスゲイトが監督であれば、周囲がポジティブかネガティブのどちらに過剰でも、浮かれたり、落ち込んだりすることなく、2022年W杯を完了目標とする復興へ向けてチームは前進を続けるだろう。
決して消極的でなく、現実的というより「賢明」と形容したい50歳は、イングランド・サッカー界の「不可能な職務」に最適な人物だと信じられるから。