プレミアリーグの時間BACK NUMBER
いつまでも微妙な評価のイングランド代表・サウスゲイト監督の真価とは? 25年前は母親にも責められた“戦犯”だったが…
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/06/29 17:04
3年前のW杯でベスト4に導いたサウスゲイト。賢明な50歳の指揮官はイングランドの復興に向けて着実にチームを前進させている
引き分けによる1ポイントでも悪くなく、リスクを冒さざるを得ない状況ではなかった。自軍が優勢とも言えなかったピッチ上では相手が攻撃的なカードを繰り出してもいたので、攻守のバランスを考えれば妥当な交代策だった。
ケインの「不動扱い」は批判の対象に
そんななか、終盤にピッチを去ったハリー・ケインは2試合連続の先発に周囲から疑問の目が向けられた。センターフォワードとして存在感が薄かった理由には、周囲の味方を含めて時間とスペースを与えなかったスコットランド守備陣の出来の良さもあるが、枠内シュートがなかったため「ナンバー9にも、ナンバー10にもなれていない」と評された。ボールを求めて深く下がる姿は「ナンバー6か!?」とまで問題視された。
システムを4-3-3から4-2-3-1に変え、2列目の中央と右サイドでグリーリッシュとブカヨ・サカがスタメンに抜擢されたチェコ戦(1-0)では、攻撃のスピードと左右のバランスも改善されて、1トップを務めたケインも惜しいシュートを放った。
それでも、指揮官による「不動扱い」は批判の対象になった。『デイリー・テレグラフ』紙には、「根拠が怪しくなっている信頼は、後悔する前に改めるべき」とする、チーフ・スポーツ・ライターのコラムが掲載されていた。
そうした反応もイングランドならではだろう。ケインは過去5年間で3度目のプレミアリーグ得点王としてトッテナムでのシーズンを終えたばかり。代表では3カ月近くゴールがないが、通算34得点。ウェイン・ルーニーが持つ歴代最多53得点も射程圏内であり、この7月で28歳と年齢的なピーク時期に入ったばかりだ。
仮に28歳のロメル・ルカクがベルギー代表で3試合ノーゴールだったとしても、祖国でベンチが妥当との声があがることは想像できない。フィニッシャーとしての実力と実績で他のFW陣を引き離している事実は、ケインも同じ。今大会はチェコ戦でもスターリングがネットを揺らしたが、決定力そのものはケインと同じ土俵で語られるレベルにはない。
言うまでもなく、サウスゲイトがケインをスタメンから外すことなどあり得ない。その信頼が「盲目」だとも思わない。
イングランドには、代表戦で2年間ゴール枯渇に陥っていたストライカーが、EURO1996得点王となって信頼に応えた、アラン・シアラーという忘れ難い前例もある。
今大会、開幕から2試合でのケインはチャンスに決められなかったのではなく、決めるチャンスがなかった。第3戦では右足と左足からの枠内シュート2本で相手GKのセーブを呼んだように、チャンス提供が改善されれば必ずゴールも生まれるだろう。