プレミアリーグの時間BACK NUMBER
いつまでも微妙な評価のイングランド代表・サウスゲイト監督の真価とは? 25年前は母親にも責められた“戦犯”だったが…
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/06/29 17:04
3年前のW杯でベスト4に導いたサウスゲイト。賢明な50歳の指揮官はイングランドの復興に向けて着実にチームを前進させている
最初の期待値が最低レベルだったことは認めよう。アイスランドに敗れて姿を消したEURO2016後、精神面でもドン底に落ちた代表の復興を担う舵取り役として、現役時代にEURO1996敗退を招くPK失敗の印象が強烈な元DFが適任とは思えなかった。
実の母に「なんで思い切り蹴らなかったの?」と責められた話は有名で、また「なんで引き受けなかったの?」と叱られたくない一心での就任決意かと、ある専門誌のコラムで冗談交じりに書いた記憶がある。
そんなサウスゲイトに対し、EURO2020のグループ初戦では「この男が監督なら大丈夫」との思いを強くした。実は開幕前、イングランドは国際的には優勝候補と目されていても、国内では「?」だらけのチームと言われていた。
主力の怪我や、所属クラブの欧州カップ戦決勝進出による合流の遅れで、基本システムから各ラインの先発レギュラーまで、蓋を開けてみなければわからないと見られていた。
指揮官は、最終メンバー発表の時点でも批判されていた。理由は、怪我で初戦には間に合わないことがわかっていたハリー・マグワイアとジョーダン・ヘンダーソンの招集だ。サウスゲイトにとって、両ベテランは3年前のロシアで重責を果たした最終ラインと中盤のリーダーとはいえ、登録人数が通常より3名多い26名に拡大されている今大会でも、枠の無駄遣いだと指摘する声があった。
だが、サウスゲイトはグループ最大の敵と思われたクロアチアとの第1戦(1-0)から、チームを最も良く理解している人物に任せておけば安心だと思わせてくれた。
決勝点をもたらしたスターリングをはじめ、MFカルバン・フィリップス、CBタイロン・ミングス、GKジョーダン・ピックフォードといった、外部の評価はさほど高くない顔ぶれが、揃って期待に応えたのだ。
「対スコットランド」も単なる2試合目というスタンス
国内ムードが一気に盛り下がる結果となった第2戦にしても、メディアが国際マッチで世界最古のライバル関係や、ポール・ガスコインが芸術弾を決めたEURO1996でのグループステージ第2戦を持ち出して「対スコットランド」を煽るなかで、白星スタートを切った単なる2試合目というスタンスに徹していた。指揮官の落ち着きは評価されるべきだ。
一喜一憂が極端な巷では、アシストもこなした初戦で「今後は外せない」と評価されたフィリップスにしても、2戦目のあとには「ボランチはデクラン・ライス1人で十分だ」と言われた。“スリー・ライオンズ”に相応しい勇敢な獅子ではなく、横パスで逃げる「蟹」に例えられた……。
中盤は、言ってみればチームの心臓部。初戦で機能していたメンバーを代えたがる監督の方が珍しいだろう。
63分にジャック・グリーリッシュが投入された際は、相手を引きつけてスペースを生み出せるフィル・フォデンではなく、ライスかフィリップスのどちらかをベンチに下げてもいいのではないかと思えた。
とはいえ冷静に考えれば、代表歴の浅いグリーリッシュ、フォデン、そしてメイソン・マウントという若い攻撃的MFトリオの揃い踏みに対して、兼ねてから慎重なサウスゲイトの判断も頷ける。