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いつまでも微妙な評価のイングランド代表・サウスゲイト監督の真価とは? 25年前は母親にも責められた“戦犯”だったが…
posted2021/06/29 17:04
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Getty Images
国際大会の夏になると、何年住んでいてもイングランドは「違う」と思わされる。
「店内の大画面でEURO2020全試合を」という文句が書かれた看板は、パブやレストランの他、床屋の前などでも見られる。また民家の窓から八百屋の店先まで、至るところに国旗が飾られている。
もちろん、イギリスのユニオンジャックではなく、白地に赤十字のセント・ジョージ・クロスだ。
日本の友人との電話ではオリンピックの話題も出るが、彼らに言わせると、サッカーの母国に男子の英国代表チームがない事実は理解に苦しむらしい。だが、サッカーの母国であるからこそ、「ホーム・カントリー」間のライバル意識は生々しい。
「セミプロ並みの力しか引き出せない」と嘆く者も
6月22日、グループDのチェコ戦が行われたウェンブリー・スタジアムでは、コロナ禍で観戦を許された約1万9000人のホーム観衆が4回、得点シーンに沸いた。イングランドのラヒーム・スターリングが決めた1ゴール以外は、他会場でクロアチアが奪ったゴール。そう、スコットランドをグループ最下位での敗退に追いやる得点を喜んでいたのだ。
その4日前、スコアレスドローに終わったスコットランド戦後の国内反応も厳しかった。イングランドは2試合を終えて1勝1分け4ポイント獲得だから、決して悪くはなかった。各グループ3位のうち4チームまで決勝トーナメントに進出できる今大会では、グループステージ突破が決まったようなものだった。
しかし、ウェンブリーで英国内の「格下」に勝てなかった母国代表には、スタンドからブーイングが巻き起こった。
チームを率いるガレス・サウスゲイトは、代表監督として初の国際大会となった2018年W杯でベスト4の結果を残し、今大会でも早々に16強入りをほぼ確実にしたというのに、まだ信頼を得られていない。
国内紙のオンライン版に寄せられたファンのコメントには、代表監督キャリア1試合のサム・アラダイスより「頼りない」とする者や、CL優勝経験者もいるチームを率いながら「セミプロ並みの力しか引き出せない」と嘆く者もいた。
その後、第3戦でチェコとの首位攻防戦を制して(1-0)グループ首位通過を決めても、サウスゲイトのイングランドは「物足りない」と言われている。
優勝を目指すのであれば次第に調子を上げる方が良いとも言えるはずだが、計2得点でベスト16に導いた指揮官には「慎重すぎる」という否定的な見方が強まっている。3年前のロシアW杯では「予想以上」だった準決勝進出だが、今回は現実的と期待されていた。そのせいか、見応え十分の内容で優勝でも達成しない限り、報道陣を含むイングランド・ファンを納得させることなど不可能と思われる。
国際的には優勝候補も、国内では「?」だらけ
この国の代表監督が「インポッシブル・ジョブ」と呼ばれるわけだ。高級紙の代表格『タイムズ』紙にも、サウスゲイト率いるイングランドに「16強入りの資格なし」という論調の記事が掲載されていた。
だが、母国人としてのフィルターが掛からないこのイングランド在住者の目には、勝ち上がる資格のあるチームを率いる有能な指揮官と映る。国際大会での試合を観るたびに、筆者のサウスゲイト株は上がっている。