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物理の授業は英語、大学レベルの実験の日々…堀池巧らOBが驚く清水東「理数科の10番」、古豪復活を託された秀才高校生の決断とは
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2021/06/24 11:02
全国の切符をかけたインターハイ静岡県予選決勝で静岡学園に挑んだ清水東
この敗戦をきっかけに気持ちを新たにしたのは、佐野だけではない。
今年は、近年では最多となる12人の3年生が冬まで残ることを決めた。その中の1人であるDF伊藤光輝もまた、理数科に所属している。
「SSHの授業は事前に英語で書かれたプリントが配られ、まずそれをきちんと予習しないと授業についていけない。予習、授業、復習の連続です。だからと言ってサッカーを疎かにしていいという理由にはならないですし、最後までやり切ろうと決意してここにやってきました。でも、(インターハイ予選の)準々決勝はスタメンでしたが、準決勝、決勝とベンチスタート。このまま冬まで残る必要性はあるのか、と考えるようになりました」
10番の佐野と違い、伊藤はサブメンバー。決勝では延長後半からの出場で終わり、ピッチに立った時間はわずかだった。
「レギュラーの3年生は決勝の悔しさも凄く味わっていると思うし、残ることを決断できたと思う。でも、僕らサブ組は簡単には決められなかった」
決勝後、伊藤はベンチ入りしていた他の3年生の6人と「残るか、辞めるか」を徹底的に話し合った。お互いの胸の内を包み隠さずぶつけ合い、4人の仲間が勉強に専念することを決めた。一方、伊藤を含めた2人は「古豪復活を実現させたい」とサッカー部に残ることを決めた。なぜか。
「僕はサッカー部で部長を任せてもらっているし、レギュラーになれてもなれなくても、このチームに貢献をしたいと考えました。辞めることを決めた4人も悩み抜いた末の決断だし、大学進学に向けて全力を尽くすことを誓った仲間です。僕らは彼らの思いも背負っていく覚悟を決めました」
将来は、大学の農学部に進んで研究職になる夢を持つ伊藤はこう続ける。
「清水東は30年近く全国の舞台から遠ざかっていても、偉大なOBの人たちだけでなく、地域の人たちも再び全国大会で活躍することを願ってくれている人が多いと感じるんです。決勝に進んだ時には学校でパブリックビューイングを用意してもらったり、先生や地域の人たちも応援してくれた。嬉しかったのが、勉強で忙しいはずの理数科の仲間たちも応援してくれて、大会前には僕と佐野のために応援タオルを作ってくれた。僕は常に持ち歩いています。温かみと期待を感じるからこそ、絶対に応えたい。最後までやり切りたいと思っています」
明確な目標設定とやり抜く力
清水東はこの後に行われた東海総体でも決勝に進んだが、またしても静岡学園に1-2で敗れた。選手権予選はなんとしても静岡学園にリベンジを果たしたいが、藤枝東や常葉大橘など、今回のインターハイ予選で清水東に敗れたチームも目の色を変えて襲いかかってくるだろう。選手権出場への難易度はさらに高まっている。
ただ、だからこそ、彼らはやりがいを感じているのかもしれない。全国まであと一歩のところまで来ている。
「周りから『古豪』と言われ続けたことが、逆に僕らを奮い立たせています。復活させたいという想いは日に日に膨らんでいます」(佐野)
「静岡における清水東はやっぱり特別な存在です。清水東は勉強だけじゃないんだぞ、両方しっかりやればできるんだぞということを僕らが示していきたいと思っています」(伊藤)
この志が伝統であり、偉大な先輩たちが積み上げた清水東の財産なのだろう。
明確な目標を立て、それを達成させるために何をすべきかを考え、粘り強く取り組む。勉強においても、部活にしても、それを促す場所が清水東にはある。
「古豪復活」の文字を視界に捉えた彼らが、これからどんな成長した姿を見せてくれるだろうか。偉大なOBたちもそれを心待ちにしている。
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