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「批判される側だったのがリスペクトに変わった」BMXのトップ選手が語る、恐怖心を超えて“やばい技”に挑むワケ 

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矢内由美子

矢内由美子Yumiko Yanai

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photograph byShuji Goto

posted2021/06/17 17:00

「批判される側だったのがリスペクトに変わった」BMXのトップ選手が語る、恐怖心を超えて“やばい技”に挑むワケ<Number Web> photograph by Shuji Goto

BMXの世界の第一線で活躍し続ける内野洋平(左)と高木聖雄。勝つだけではない、競技の魅力とは

 高校卒業後は就職し、2年間は仕事をしていたが、プロの道へ進んだ。今、高木はこのように言う。

「BMXでは、世界選手権に100人が出たら、100分の1の技をやるとポイントがバーンと上がる。右に倣えというのが日本の教育だとしたら、BMXではそれはポイントとしては低い。僕の場合、自分が隠していたことで『やばい!』と言ってもらえたことは、まさに発見でした。それまでの僕は『何やってんの』と批判される側だった。それがBMXに乗るとリスペクトに変わったのです」

 人と違うことが否定されるところから180度変わり、価値へと変えてくれたのがBMXだった。

「他の選手がやばい技を決めたら、走って祝福します」

 BMXの大会を見ていると、ライダーたちが互いに互いを認め、ライバルの垣根を越えて尊敬し合う光景がある。2015年、高木が日本人で初めて「ダブルバックフリップ」の大技を成功させた時の映像には、ライダー仲間が自分の成功のように大喜びで高木に駆け寄って祝福する姿があった。まだ中学1年生だった中村も満面に笑みを浮かべて駆け寄っていた。

 高木は、「僕らは真剣勝負の世界大会でも、現場でみんなで称え合う。他の選手がやばい技を決めた時は、走って行って祝福します。僕らにとってはそういうのは当たり前。見ている人にとっては、ちょっと不思議かもしれませんけど」と誇らしげに語る。

そのまま行けば優勝でも、あえてリスクのある技に挑む

 一方、内野が考えるBMXの魅力は何か。それは海外に出た時、英語ができなくてもBMXひとつで友達ができることを実感したときに気づいたことだった。

「海外に行っても自転車があれば友達ができる。会話ができなくてもなぜか親友ができる。喋っていなくてもなんとなく分かり合える。自転車に何かがあるんです」

 今では「世界中にできた友達に、最高の舞台を用意したい。みんなで楽しめるイベントを作りたい」という思いから、BMXの大会をプロデュースしている。

 内野は、BMXライダーは誰もが「かっこよさ」を愛するとも言う。

「リスクを冒さずそのまま流していけば優勝という場面でも、あえて失敗を恐れずに攻めに行くのがかっこいい。こいつ、優勝だけじゃない。人間としてもやばい、かっこいいというような感覚なんです」

 競技の面では、「フラットランドは日本人に向いている」と内野は思っている。

「どちらかと言うとフィギュアスケートやブレイクダンスに近く、日本人の器用さや、おしゃれな感覚は世界に認められやすい。BMXのルールで決まっているのはタイヤが20インチであることだけ。自分の体格に合わせてサドルの高さやハンドルの角度などを調整できる。だから、コンクリートさえあればあとは努力次第で誰でも活躍できる可能性がある。言い訳のない競技なんです」

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