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井上尚弥が語る“引退は35歳”の理由 「目標が何階級制覇するとかじゃ、いつか達成するじゃないですか」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/06/14 11:02
6月19日(日本時間20日)、ラスベガスでの防衛戦に挑む井上尚弥は、バンダム級4団体制覇の先を見据えている
「今はみんな統一戦を望むようになりました」
それでもなお、井上は今回の試合を前に「モチベーションは高い」と言い切った。「勝って当たり前」と言われる試合であっても、微塵も気を緩めないのが井上だ。加えて今回は、この先に見据えるバンタム級の主要4団体制覇という揺るぎない目標が大きなパワーを生み出している。
世界にはメジャー4団体があり、WBAとIBFを保持する井上にとって残るはWBCとWBOということになる。世界王者が4人いるという状況は、「いったいだれが一番強いの?」という素朴な疑問を常に生み出す。だから井上は唯一無二のチャンピオンを目指す。デビュー以来、一貫してこだわってきたことでもある。
「(対戦する相手は)強い選手と、強い選手と、というのは常々言ってきましたからね。昔は世界チャンピオンが普通にランカーと防衛戦をするのがボクシング界の常識でした。それを変えたいという思いはありました。今はみんな統一戦を望むようになりましたし、日本選手の意識もだいぶ変ってきたんじゃないかと思います」
チャンピオンが強い挑戦者を迎え撃つ。それは選手のやりがいを満たすだけでなく、ファンにとっても喜ばしいことは言うまでもないだろう。
最初からスーパースターだったわけではない
振り返れば井上が初めてライトフライ級で世界チャンピオンになったのが2014年4月のこと。あれからもう7年が、プロデビューからは8年8カ月がたった。
今や世界屈指のトップファイターとなった井上とて最初からスーパースターだったわけではない。世界で影響力を持つ選手になるまでには実に気の長い、地道な努力があった。
初めて世界チャンピオンになったとき、井上は周囲の反応を「こんなものか」と感じた。思っていたほどは注目されず、世界王者の存在を知らない人も多かった。
ライトフライ級からスーパーフライ級にクラスを上げて2階級制覇を達成したのは'14年暮れのことだった。このクラスでは王座を7度防衛し、知名度も上げたが、それでも満足にはほど遠かった。
「スーパーフライ級は長く防衛しましたけど、じゃあどんな相手と対戦したかと言えば……振り返るとちょっともったいなかった気がしますね」