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井上尚弥が語る“引退は35歳”の理由 「目標が何階級制覇するとかじゃ、いつか達成するじゃないですか」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/06/14 11:02
6月19日(日本時間20日)、ラスベガスでの防衛戦に挑む井上尚弥は、バンダム級4団体制覇の先を見据えている
「無観客でやったら100%勝ちます」
井上の影響力は今や絶大だ。近年、日本人ボクサーへの海外からのオファーが増えている。それはモンスターのパフォーマンスが日本人ボクサー全体の評価を高めていることが理由の一つだろう。
「無観客でやったら100%勝ちます」、という井上のセリフに心を震わせたのはスポーツクライミングの東京オリンピック金メダル候補、楢﨑智亜だった。「ああ、カッコいいなと思いました。イレギュラーな要素を排したら必ず自分が勝つ。そう言い切れるまで実力を高めたい」(Number1025号)。井上という存在はボクシングの枠を超え、他競技のトップ選手にも影響を与えるようになっているのだ。
そんな井上が昨年からちょっと気になる発言をするようになった。現役生活が折り返し地点を迎えたと言うのである。そして引退の年齢を35歳と区切ってもみせた。
「ゴールは決めておこうかと思っているんです。目標がこのタイトルを獲るとか、何階級制覇するとかじゃ、いつか達成するじゃないですか。だから年齢をゴールにして、そこまでしっかりやろうと考えているんです」
圧倒的な勝利を重ねながらも、日々のハードなトレーニング、極度の緊張を強いられる試合を重ね、井上の体もノーダメージというわけにはいかない。最近は、追い込んだ翌日に以前に比べて疲れが抜けきらない、という変化も感じるようになってきた。
「ライト級はないです。そこは分かります!」
もし現役生活が35歳までだとすれば残された期間はあと7年。当面の目標はバンタム級の4団体制覇で、次にくるスーパーバンタム級進出まではうっすらと見えている。では、さらにその先にはどんな世界が広がっているのか。最終的にはライト級あたりでファイトする可能性もあるように思えるのだが……。
「いや、それは絶対にないです。先のことは分からないですけどライト級はないです。そこは分かります!」
苦笑いしながら強く否定したかと思ったら、さらりとこう付け加えるのだ。
「まあ、5、6年前にバンタム級でやるなんて思ってもいませんでしたけどね」
この先、モンスターが何をしでかすのかは本人さえも分からない。それはファンの楽しみであり、井上の楽しみでもある。