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農業部、広報部、おもてなし部…高川学園サッカー部の「部署制度」がスゴい! “160人の大所帯チーム”が考えた「部活」の意義とは?
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2021/05/31 11:00
練習試合で訪れた山梨学院高のバスを見送る高川学園の生徒たち。江本監督が部のテーマに掲げるのは「目配り・気配り・心配り・言葉配り」だ
このように進化と工夫を重ねてきた高川学園の部署制度だが、真価を問われたのが昨今のコロナ禍での活動だった。
実際に高川学園も部活動が一切禁止された時期があり、生徒たちは大好きなサッカーの時間を奪われた。しかし部署制度があったおかげで、感染予防対策を徹底しながら部全体としての活動は継続することができた。
寮に入る生徒たちは農業をするグループと残って勉強する組に分かれて活動。隣接する畑で土づくり、畝作り、肥料撒き、苗植えなどを自主的に工夫して取り組んだ。一方、自宅で自粛していたキャプテンDF奥野奨太(総務部)は、サッカー部のホームページを自分たちで制作するべく、その勉強をする時間に当てた。
「自宅生の選手たちは寮生が行っていた農作業が出来ない分、部署の垣根を超えて、これまでの試合の映像を使って分析するなど、部活再開後を想定して練習メニューを提案していました。それぞれがチームのためにやるべきことを考えて前向きに取り組んでいる姿に僕自身も大きな刺激を受けました」
苦境の中で全員がそれぞれの立場でやれることを考えて取り組めたことで、部署活動の意義を改めて感じることができた。
「人間的にも成長できるかも」
こうした姿は新入生たちの目に新鮮に映っているようだ。1年生ながらトップチームの試合に絡むDF松原滉雅は、地元・京都から高川学園にやってきた。
「最初は地元の強豪校に行こうと思っていたのですが、高川学園がサッカー以外にもユニークな活動をしていることを知って、『人間的にも成長できるかも』と思ったんです。実際に練習会に参加したら、先輩たちが僕らに対して飲み物やタオル、椅子を用意してくれた。グラウンドやロッカーを綺麗に掃除していて、とても驚きました」
現在は農業部に属する松原は、これまで一度も触ったことがなかったというシャベルの使い方を先輩に丁寧に教えてもらい、未体験の達成感を味わっている。キャプテン奥野は続ける。
「以前だったら、まず自分たちがどうやったら楽しめるかを考えていたのですが、総務部に入ったことで、自分たちが考えた企画によって相手にどう楽しんでもらえるかと、相手の立場になって考えられるようになったことが自分の中の大きな変化です」
J3テゲバジャーロ宮崎でプレーするDF石田皓大は、3年前の福岡大4年時に教育実習生として母校に戻ってきた。石田が在籍した当時はまだ部署制度はなく、生き生きと活動する後輩たちの姿に衝撃を受けた。
「高校生たちがここまでコミュニケーションが取れるのかと驚きました。大人の指示を待って動くのではなく、選手が主体となって考えて行動する組織になることが理想。将来、教師になりたいという夢を持っているので、今も年に1回は必ず母校に行って学びを得ています」