ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
ファイターズでは“プロスカウト”と呼ぶスコアラーという仕事、その孤独な舞台裏とは? 試合終了後に午前3時すぎまで作業
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph bySankei Shimbun
posted2021/05/11 06:00
現役時代の石本努氏。現在は日本ハムでプロスカウト(スコアラー)としてチームを支えている
流浪の生活である。航空券など交通手段の確保と手配、出張先のホテルの予約などはすべて自らが行う。石本スカウトの場合は重量20キロ以上の大型スーツケース、業務に必要な機器などを収納した10キロ以上のリュックサックを常に携行して各地を転々とする。そのまま長期間、札幌市内の自宅に戻れないことが多い。スーツケースには寒暖に対処できる衣類、悪天候に耐えられる雨具など、様々なシチュエーションに対応できる装備を詰め込んでいる。「帰宅できた時に、少し入れ替えをする」。自宅へと戻れた時に季節に応じ、多少の衣替えを行う程度だという。
マネジャーらが遠征地での生活環境等すべてを整えるチームとは違い、自活が求められる暮らし。食事も1人で済ます。他者との接点は、同じ球場のバックネット裏で業務にあたるライバルの他球団のスコアラーと試合前に談笑、近況報告をするくらいだという。試合開始と同時にスイッチが入る。
「打者は1球で、すべてが変わったりするので」
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ただ機械的に球種、配球をチェックしているだけではなく、調子、状態が激変するポイントを見逃さないように全神経を研ぎ澄ましているという。
最適な戦略をアウトプットする
「先」と「先々」を終えると「チーム担当」となり、一軍へと合流する。試合直前にバッテリーと野手で分かれて行うミーティングで活用する、選手へと託す資料の確認を入念に行う。現代野球では特殊球が増えたこともあり、球種の認識のズレなどを「チーム付き」らの意見も踏まえながら整える。自らがインプットした情報をかみ砕き、無用な情報を削ぎ落とし、分かりやすく最適な戦略、攻略ポイントを試合前にコーチと選手らへとアウトプットするのである。
レクチャーした策とともに、チームと一緒に戦っている。対戦するA球団の「先」を務めると、そのまま「チーム担当」として「北海道日本ハムファイターズ対A」の試合を同じ球場で見届けることになる。黒星を喫すれば「やっぱり『先』をやっていると、落ち込みます」という。カバーしたカードが終わると、少し傷心のまま再びチームを離れて「先々」へと役割を転じる。
チーム、選手は翌日にも挽回のチャンスはあるが、雪辱の機会はまた2カード先。悶々とした日々を過ごしながら、また目の前のライバル球団へと目を凝らす。
局面でのベンチワークの機微、また選手個々の1球1球、1プレーの対戦相手へのアプローチ――。
北海道日本ハムファイターズは新型コロナウイルス禍が直撃して厳しい情勢が続くが、一丸で現状と向き合う。
最前線の舞台裏で戦う「先」と「先々」の執念や労力にも思いを巡らせ、広報室から皆の力を結集して臨んでいく一戦、一戦を注視するのである。