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ファイターズでは“プロスカウト”と呼ぶスコアラーという仕事、その孤独な舞台裏とは? 試合終了後に午前3時すぎまで作業
posted2021/05/11 06:00
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph by
Sankei Shimbun
プロ野球には、舞台裏にも無数のプロフェッショナルが存在している。
その中には一般社会では耳慣れない「さき」や「さきさき」という、独特の呼び名の役割を使命とする人たちがいる。漢字で表記すると「先」、「先々」となる。
公式戦の成否、試合の勝敗に直結する任務を担う1つの要職がある。スコアラー業務である。球界で一般的にはスコアラーと呼ばれることが多く、なじみはあるだろう。北海道日本ハムファイターズではプロスカウトと称している。
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12球団すべてに、スコアラー業務の重責を託されたスペシャリストが配されている。時にスポーツ紙などの見出しに、スパイをモチーフにした不朽の名作映画になぞらえて「007」などと躍り、表現されることもある。春季キャンプ中、各球団の新戦力らを偵察した際の選手への評価コメントなどでクローズアップされることがあるが、裏方スタッフの中でも黒子の中の黒子である。開幕すると息を潜めているかのように、存在を消す。
「チーム付き」「先乗り」「先々乗り」
ファイターズのプロスカウトは役割が明確化されている。ゲームプランの戦略を練る担当者を大まかに分類すると、1年間チームに同行してベンチ入りもする「チーム付き」、そして通称「先(さき)乗り」と「先々(さきさき)乗り」というポジションである。略して「先」、「先々」と呼ばれる。
「先」と「先々」は、一軍には同行せずに対戦相手をチェックする。その様々な情報を、球団へと供給。「チーム付き」と球団に常駐するアナリストで整理、精査をして、コーチングスタッフを含むチーム、選手らへと提供して、戦略へと転化するのである。
この「先」と「先々」を司るスコアラーは、孤独な任務である。「先」は次カードで対戦する球団、「先々」は2カード先に組まれている相手が偵察のターゲットになる。
「先」を任された場合は、視察した際の先発投手が自軍のカードで登板する可能性が極めて低く、野手をメーンに中継ぎ陣など鮮度の高い情報の収集を求められるという。選手個々の状態、一、二軍の入れ替えなどメンバー構成の変更の可能性にも注意を払う。配球の傾向などデータの供給だけではなく、ゲームプランに有益な情報を、独自の視点や考察も交えながら準備をするのである。
「先々」は2カード先、日本のプロ野球のスタンダードな日程であれば1週間後に対戦する球団のチェックになる。3連戦の場合、先発投手3人がそのまま自軍に登板するケースが多く、偵察の際に主眼を置くのはそこになるという。「先」と「先々」はともにその間、チームを離れて、1人で行動をしているのである。ビジター球場を転々とする生活を主とし、開幕から1シーズンを終える。