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カープ森下暢仁に“2年目のジンクス”はないのか? 甘いマスクに隠した“知られざる苦悩”「あの日に戻れないかな」
posted2021/05/10 17:02
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
プロ野球界には「2年目のジンクス」という言葉がある。1年目で活躍したルーキーたちは、みな2年目には成績悪化に苦しむというもの。だが、広島の森下暢仁には、そんな言葉が当てはまらない。それどころか、凄みすら感じる。
新人王を獲得して迎えた今季、開幕から先発ローテーションを守る。カード初戦の先発として各球団の主戦と渡り合い、1年目と変わらぬ安定感をみせる。5月10日現在で3勝3敗、防御率2.14と、成績でもリーグ上位につける。相手球団の研究と警戒が増す中、得点力不足にあえぐ打線の援護を待つ中で残す好成績からも「2年目のジンクス」とは無縁のようだ。
ただ、森下は昨季とは違う苦しみを味わっている。
プロになってから初めて見た「意外な姿」
「開幕してから(直近の)DeNA、ジャイアンツ以外の試合は自分の中でも良くなかったので、今やっといい感じになってきている」
今季初登板から16イニング連続無失点も、自分の感覚で投げられない登板が続いていた。特に4月14日の阪神戦は持ち味である制球面に狂いが生じた。あれだけの頻度で捕手がミットを構えた場所とは違うところへ投じる姿はプロ入り後初めて見た。
「あのときは変化球もストライクが入らなかったですし、真っすぐもコントロールできないという状態で、変化球でストライクを取りに行って打たれる……。そういうのが多かったのかなと思います」
5回6安打5失点と、持ち前の修正能力を発揮できなかった。
翌登板となった4月20日ヤクルト戦は、何とか7回5安打2失点にまとめた。だが、打線の援護なく、プロ入り初の自身連敗。先発としてチームを勝たせられなかった責任を感じるとともに、感覚がまだ戻っていないジレンマもあった。
阪神戦を振り返って「あの日に戻れないかな」
周囲からは順調な滑り出しと思われている中で、感覚を取り戻そうとしながら投げてきた。本調子でなくても、相手の攻撃をしのぐ術を練り、何とかチームに勝機を残す投球を続けてきた。クオリティースタート(先発として6回以上自責3以下)を記録できなかった登板も、既出の阪神戦1試合のみ。ゲームメーク力は特筆すべき能力だろう。そこが森下の先発としての矜持であり、凄みでもある。