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なぜ長谷部誠は37歳でもブンデスの一線級で戦える肉体なのか 7年間ケアする鍼灸師が語る「自然体」のスゴさ
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byItaru Chiba/AFLO
posted2021/05/10 11:02
2018年、ドイツ杯優勝を長谷部誠、鎌田大地と喜ぶ黒川孝一氏。鍼灸師の立場から37歳の肉体のすごさをどう見ているのか
並みの選手の場合、うまくいかない状況にイライラしたり、味方と連携がうまくいかず不満の声をあげてしまったりする。練習からアドレナリン全開で本気で取り組んでいたら、そうした感情の爆発だってありうるだろう。
「自分のプレーが悪くても変わらないんです」
「長谷部選手は、自分のプレーが悪くても変わらないんです。いつでも本当にフラット。『ああ!』とちょっと声をあげることはあっても、それで落ち込むそぶりもない。今日はここができていなかったから、うまくいかないところがあったからと、それを引きずって居残りトレーニングするようなこともあまりない。いい意味で割り切ることができるんだと思います。うまく気持ちを切り替えて、普段のルーティーンを壊さずにやって、試合へ向けて調整するというのを毎回繰り返している。いつも一緒のことをして、それで試合に合わせてくるというのは、本当にすごいところだと思います」
経験がない選手、あるいは経験を整理できていない選手は、どんなプレーを求められているのか、試合の状況下でどのようにプレーを変化させるべきかを局面ごとに考えるから、精度も下がるしスピードも遅くなる。
あるいは、練習でのプレーや前節のプレーを気にして不安になり、考えすぎてしまうということもあるかもしれない。
割り切るということは、いい意味でミスを受け入れるということだ。
どんな選手でも絶対にミスはする。ミスをすることに対して開き直るのではなく、割り切って、ミスありきで次にどんなプレーをすべきかに思考回路を切り替える。そのへんの思考的柔軟性が備わっているからこそ、プレッシャーに押しつぶされることなく、自分のプレーをやり切るために気持ちを集中させることができる。
本当に「自然体」という言葉がぴったり
それは、場数を踏んできた実体験に基づく自信と確信があるからだろう。
長谷部の取り組みの一つひとつはプロ選手として当たり前のことかもしれない。でも、その当たり前をそこまで丁寧にやってない選手が多いのなら、やっていないことのほうが当たり前ということになる。
「だから毎日、当たり前のことを何年もやり続けている長谷部選手はすごいとリスペクトされているのでしょう。これまでにさまざまな試行錯誤をしてきての今だと思うのですが、本当に『自然体』という言葉がぴったりと当てはまると思います。
最新のトレーニングやメソッドに流されることなく、自分に何が必要で何が必要ないか自分の頭で考え、感じ、自分にとって最良の行動を常に選択する。その部分を継続できるところが、彼の素晴らしさだと思います。どんなときも自然体なんですよ」
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