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なぜ長谷部誠は37歳でもブンデスの一線級で戦える肉体なのか 7年間ケアする鍼灸師が語る「自然体」のスゴさ
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byItaru Chiba/AFLO
posted2021/05/10 11:02
2018年、ドイツ杯優勝を長谷部誠、鎌田大地と喜ぶ黒川孝一氏。鍼灸師の立場から37歳の肉体のすごさをどう見ているのか
例えば、ある試合でチーム全体の調子も良く、イメージ通りボールを奪い取れる機会も多かったことで、何度もボールを受けて、得意のプレーでチャンスメイクに貢献していたオフェンスの選手がいるとする。
「体が軽く、痛みもなく絶好調と感じた次の試合では、相手チームへの対策として前回の試合とは異なる役割、相手選手の攻め上がりについて行かなければならなくなる。すると走りのインテンシティも、ハイスピードで走る距離も変わってくる。前回のように前線で起点となって攻撃で貢献したいと思っても、長距離ダッシュの後でボールを受けて得意のドリブルを見せたくても、足が重くてボールがついてこない。そんなふうになってしまうことがあります」
90分間攻め続けた疲労と守り続けた疲労は全然違う
ポジション、自身の役割、対峙する相手の特徴、布陣やチームメイトのコンディション、さらには天気や試合展開……。サッカーの試合には多くの要素が関与していて、監督から求められる動きは変り、それに伴い体への負担も変わってくる。
「サッカー経験者ならわかると思いますけど、90分間攻め続けた疲労と守り続けた疲労はやっぱり全然違う。自分が思ったプレーができているときは体が軽いと感じるでしょうし、相手に対してリアクションが多い試合は疲労度が高く感じるものです」
その違いに気づけず、自分の体をコントロールできずに、振り回されてしまうとなかなか自分のプレーを出すのは困難だ。
そうした点から考えても、長谷部は様々な要素が絡み合ったゲームにおいて体に対する負担の変化に順応する力が備わっているし、どんな状況下で、どんな判断を下し、どんなプレーを選択すればいいのか、自身の持つフォルダの中から瞬時に検索し実行する能力が極めて高い。
37歳である。どれだけコンディションを整えていても、相手に横に揺さぶられたら体はついていけない(はずだ)。それなのに、そんなシーンはあまりない。それは長谷部が、相手が有利にならないように事前に対処している何よりの証拠だろう。
調子がよくない日もあるが、対応が違う
黒川が言うには、長谷部も練習では調子が良くなかったり、ミスが目立ったりする日もあるという。しかし、そこでの対応が違う。