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「今、知識がない人が指導者になれる」 窃盗症、摂食障害に苦しんだ原裕美子が語る“スポーツ指導者の問題点”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2021/04/30 06:04
原裕美子は京セラからユニバーサルへ移籍後、小出監督(左)のもとで2010年北海道マラソンを制した
「ほかになかったから、陸上部の顧問になりました」
原が京セラに在籍していた頃と比べれば、指導の理論、実践方法、身体のケアなどの知識はより深まり、広がりつつあるように思える。
原は、その点については頷きつつも、「別の問題もあります」と指摘する。
「陸上って、誰でも指導できてしまう競技だと思うんです。ぜんぜん知識がない人でも指導者になれる。これは極端な話ですが、『ほかに担当する部活がなかったから、陸上部の顧問になりました』、みたいな指導者もいるくらいです。そして知識がないまま指導していて、たまたま実績をあげてしまい、『これが正しいんだ』と自己流でそのまま指導を続けてしまうことがあります」
陸上は、敷居の低い競技だ。他の競技と比べても格段に道具が少ない。世界の広い国々で多くのアスリートが陸上競技に取り組んでいるのは、その世界に飛び込むハードルが低いという要因もある。
陸上の魅力であるそうした点が、指導の質という面でマイナスに働いていることは否定できない。
「例えば日本サッカー協会みたいに、指導者のライセンス制度を設けたりすれば、体重管理も含めて、現代にあった指導方法がもっと普及していくんじゃないかと思います」
指導についての疑問を指導者に言えない環境でした
さらに原はこう語る。
「京セラは特に練習が厳しかったのですが、それが私の能力を伸ばしてくれたことは事実です。ただいろいろ誤った管理や指導があったとは思います。特に「体重」管理指導について、抱いていた疑問を指導者に言えない環境でした。あの時代は程度の差こそあれ、京セラだけでなく、選手と指導者の間に壁がありました。そのうえで私が言えるのは、指導者は選手のことをもっと真剣に考えてほしい、練習だけじゃなく心の部分、内面の小さな変化も感じてほしいなということです。
もう1つ思うのは、どうしても女性の指導者にしかわかってもらえない女子選手の苦しみがあるんじゃないかということです。生理のことなどはもちろん男性指導者には言えないし、男性も理解するのは難しいはず。その点も含めて女性指導者が増えていけば、心のケアを今より充実させることができるんじゃないかと思います。何でも相談できる環境作りは大切だと思うんですよね」