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「今、知識がない人が指導者になれる」 窃盗症、摂食障害に苦しんだ原裕美子が語る“スポーツ指導者の問題点”

posted2021/04/30 06:04

 
「今、知識がない人が指導者になれる」 窃盗症、摂食障害に苦しんだ原裕美子が語る“スポーツ指導者の問題点”<Number Web> photograph by AFLO

原裕美子は京セラからユニバーサルへ移籍後、小出監督(左)のもとで2010年北海道マラソンを制した

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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マラソン元日本代表の原裕美子は『私が欲しかったもの』(双葉社)を刊行し、摂食障害や窃盗症に苦しんだ過去と現在を隠すことなく打ち明けた。彼女が自身の経験から感じる、陸上界、スポーツ界への憂慮とは(全3回の3回目/#1#2へ)。

 名古屋国際女子マラソン(当時)、大阪国際女子マラソンなどで優勝、世界選手権でも入賞するなど女子マラソン界の第一線で活躍してきた原裕美子。

 一方で、高校を卒業して入社した実業団チームでは過酷な体重管理に苦しめられた。その後、摂食障害を患い、さらには窃盗症に悩まされることになる。

 原が減量苦から摂食障害となった背景には、長距離界における「体重が軽いほうが有利」という考えがある。

 無理な体重管理は、陸上界をはじめとするスポーツの世界から消えていない。

「(無理している選手は)います。見ていて分かりますね」

 原が仕事で地方都市のホテルに泊まったとき、新体操クラブの女の子たちと居合わせた際のエピソードが、原が3月に出版した『私が欲しかったもの』(双葉社)に収録されている。

体重のみを見て体脂肪や骨量を見ない体重管理

――バイキング形式の朝食会場でのことです。「あれは油が多いからダメ」「こっちを食べなさいね」という、コーチらしき人の声が聞こえてきました。子供たちのお皿に目をやると、半分にカットされた食パンにサラダ、卵焼きがちょこんと乗せられているだけ。私は言葉を失いました。

――テレビで高校駅伝関連の番組を見ていると、年々、“細すぎる女子選手”が増えていることが気になっています。カロリー制限をしない限り、10代の選手があんな体にはなりません。ランニングパンツから見える太ももに肉がなく、41キロまで体重を落としていた頃の私と比べてもさらに細い。栄養は足りているのか、体は大丈夫なのかと、私は思わず心配してしまいます。

 同書を出版したあと、京セラ時代に同僚だったトレーナーと話をする機会があったと言う。

「トレーナーさんは、『今も間違った体重管理をしているチームは多い』と言っていました。体重の中身を気にせずに、ただ何キロだ、何キロになった、という数字しか見ないんです。大切な要素である体脂肪や骨量のことはぜんぜん気にしない。それらを含めての体重管理が必要だと思うのですが。なんとかしないと、正しい管理方法をもっと広めないと駄目だな、と思います」

【次ページ】 「ほかになかったから、陸上部の顧問になりました」

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