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相撲の起源は「殴る・蹴る・なんでもあり」 国技に見る“伝統とスポーツ”はどう共存していくべきなのか? 

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松尾奈々絵(マンガナイト)

松尾奈々絵(マンガナイト)Nanae Matsuo

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photograph byJIJI PRESS

posted2021/05/07 17:01

相撲の起源は「殴る・蹴る・なんでもあり」 国技に見る“伝統とスポーツ”はどう共存していくべきなのか?<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2019年の大相撲九州場所、遠藤(左)をかち上げで攻める白鵬

 1952年から大相撲の土俵では、四本柱が取り払われ、つり屋根式に改造されている。元来、四本柱は青竜、朱雀、白虎、玄武の神が宿っているとされている重要な要であったが、1953年から始まるNHKの大相撲のテレビ中継を前に、観客の視界を妨げてしまうためという理由で取り除かれていたという。「伝統」ではなく、「観客」の目線が重視された改革だった。

格闘技なのに、医師が到着するまで「5分もかかる」

「その柔軟さがあるのなら、他にも変えたほうがいいこともあるんじゃないかと思っていて。女人禁制もその1つですが、例えば先場所では、力士が首付近から土俵に落ち、動けなくなってしまうというアクシデントがありました(※)。だけど誰も助けないし、土俵脇に医者が控えてもいない。結局、医師が駆けつけるまで5分かかっているんですよね。他のスポーツであれば、すぐにドクターチェックを入れるというのは常識になっているはず。格闘技であるにもかかわらず、そういった体制が整えられていないことはおかしいのではないかと」
※今年3月の春場所13日目、境川部屋の三段目力士・響龍(ひびきりゅう)が取組中にすくい投げを受けて頭を強打。意識はあったものの、倒れたまま動けない状態に。その後、病院に緊急搬送されて、治療を続けていたが、4月28日に容体が急変し、同日午後、急性呼吸不全のため東京都内の病院で死去した。28歳だった。土俵で倒れた後、医師が到着して緊急搬送されるまで6分以上の時間が経っていたことで、対応の遅れが問題視されていた。

 取材のなかで、伝統に守られた大相撲が「どこか閉鎖的であること」も印象的だったという。スポーツ指導について様々な問題が取り沙汰される中で、どのスポーツにも改善できる点はあるだろう。しかし、閉鎖的な空間だからこそ、『この人の元で学びたい』という弟子入りを志願する者がいて、生まれる連帯感もある。

「土俵に立っている力士の皆さんを否定するつもりは一切ありません。とにかく一番報われるべきはプレイヤー。プレイヤーが割を食うような伝統は変えるべきだと思います。伝統という言葉を都合よく使ってはいけない」

「型」がある相撲に“個性”を描く難しさ

 作中での相撲の描かれ方にもその魅力が迫力ある絵とともに伝わってくる。作者のいおりさんは、漫画で描くにあたって、相撲の基礎の動きを体感したいという思いから、協会へ取材交渉をしたが、新型コロナウイルスの影響などもあり、思い通りには進まなかった。

 そこで、YouTubeで元力士のチャンネルを見るうちに、現在作品のアドバイザーとして協力されている来未(くるみ)さんのチャンネルにたどり着いた。自分の住まいから近い公園で相撲教室を開いていたことから、いおりさんは生徒として参加し、事情を話して協力を仰いだ。そこから相撲業界の内部事情から、相撲の技術の話まで聞くことができ、実際に稽古もつけてもらったという。

「相撲の動きって、言い方が難しいですが、言ってしまえば地味なんです。足を高くあげることもそんなにないですし、飛び跳ねることも基本的にはほぼないので。力士は両足を地につけて、そこからすり足で、腰を落としてなるべく前屈みにする。型が決まっているんですよね。そこで個性を出そうと思って、とんでもないことをさせてしまうと嘘にしかならない」

 実際の相撲の基本は踏まえ、来未さんの話を伺いながら自分なりに蔵王だったらどうするかを肉付けしていく作業を続けた。

【次ページ】 「主人公の蔵王を中心にしたドラマではないんです」

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