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相撲の起源は「殴る・蹴る・なんでもあり」 国技に見る“伝統とスポーツ”はどう共存していくべきなのか?
text by
松尾奈々絵(マンガナイト)Nanae Matsuo
photograph byJIJI PRESS
posted2021/05/07 17:01
2019年の大相撲九州場所、遠藤(左)をかち上げで攻める白鵬
コロナの影響はもう一つあった。アシスタントを仕事場に呼べなくなったということだ。
「これまでの作品では、アシスタントを雇って肌や服にスクリーントーンを貼ってもらい、影の濃淡をつけていました。それは時間がかかる作業なので、アシスタントが呼べない今、自分一人ではできない。どうしよう、と思った時に、テレビ番組で高橋ツトム先生が、原稿とは別紙に薄墨で色を付け、それをスキャンしてパソコンに取り込み、デジタルでトーン加工して原稿に一体化させるということをしていたんです。その方法を真似させていただきました」
その結果、薄墨で濃淡をつけながら彩色をしたような画面となり、力士の迫力やその場にいる人によって生まれる熱気が絵に現れているのだ。
「主人公の蔵王を中心にしたドラマではないんです」
『すまひとらしむ』1巻のあとがきでは、「このまんがに物語はありません。蔵王という力士の戦いの記録です」と締めている。
「漫画において、物語は主人公を中心としたドラマだと考えています。もちろん蔵王が今後どうなっていくかの展開はありますけど、作中で彼自身が自分のことを語ったりするシーンは少ないです。ただ闘っていく様を見せていく。漫画というドラマの中で“共感しにくいキャラクター”だと思います。そういう意味で、主人公の蔵王を中心にしたドラマではないんです」
作中では膝を壊して「かつてはすごかった」と言われる力士が、蔵王と相対し、その真剣勝負を受けることで、ぼんやりとした表情から一変し、生き生きと、そして不敵に笑うシーンが登場する。
「メインで見てほしいのは、蔵王の戦う相手たち。彼らは、蔵王と戦うなかで自分のカッコ悪さ、至らなさを見せていきます。すごく人間的なところですね。そして、みんな蔵王に負けてしまう。怪我をさせられたり、場合によっては立ち直れないところまでコテンパンにやられてしまうこともあるでしょう。でも“真剣勝負”ってそういうものだと思うんです。ただ負けた先にも彼らには道があって、その先でどういう選択をするのか、どういう表情をするのか……。ぜひ“負けた男たち”を見てください」