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相撲の起源は「殴る・蹴る・なんでもあり」 国技に見る“伝統とスポーツ”はどう共存していくべきなのか?
posted2021/05/07 17:01
text by
松尾奈々絵(マンガナイト)Nanae Matsuo
photograph by
JIJI PRESS
スポーツにおいて「伝統」とはどうあるべきなのだろうか――。
歴史・文化・興行・神事・競技……様々な側面を持つ国技“相撲”を舞台に、その問いを読者にぶつけるのは、ヤングアニマル(白泉社)で連載中の相撲漫画『すまひとらしむ』だ。
主人公である白髪の力士・蔵王(ざおう)は、作法や伝統を重んじる大相撲を「不愉快」とあざ笑い、「文句があるなら俺を殺してみろ」と反則スレスレの技で相手を負かしていく――。それだけ聞くと、主人公が国技・相撲の伝統を破壊していく物語なのかと想像してしまうが……。
「蔵王は大相撲を改革してやろうなんてことを考えながら土俵に立っているわけではありません。土俵に立って日々、自分の存在を示し続ける。自分のやりたいことをやる。土俵に立つことだけは曲げない男です」
そう話すのは、これまでに柔道やサッカーなどを題材に作品を執筆し、今作を描くにあたっても、大相撲OBや関係者に取材を重ねてきた『すまひとらしむ』の原作者・いおり真さんだ。
横綱・白鵬の「品格」問題
蔵王はデビュー戦で期待の新人力士・武心力を、ほとんど肘打ちにも見えるような「かち上げ」で倒す。血を流して失神する力士を前に、観客は「ふざけんな」「汚えぞ」という野次を飛ばした。しかし、蔵王は「土俵は戦場 相撲は殺し合い」と言い放つ。
ここで思い出したのは、現役の大相撲力士で第69代横綱の白鵬だ。2019年の九州場所で繰り出したかち上げにより、敗れた小結遠藤が鼻血を流した場面は物議を醸した。その後、横綱審議委員会で矢野弘典委員長が「横綱の振る舞いとして見苦しい、と(委員の)ほとんど全員から意見が出た」と明らかにしている。
「あのシーンはあくまでエピソードとして頭の中に浮かんだ程度で、オマージュでもないんです。ただ土俵での蔵王の象徴的な振舞い方として『かち上げ』を描きたかった。『こんな力士いたらどうですか?』という読者への投げかけですね。ただ決して反則ではないんです。白鵬の時も、問題視されたのは“品格”でした。
その前後で、白鵬を敵とみなして、日本人力士の稀勢の里を応援するという機運もありましたが、僕にとって白鵬は正義の味方なんです。相撲の人気が少し下がっていた時にも、土俵に立って、相撲を支えてくれた男というイメージで、なんでこんなに敵のようにされているんだろうと不思議だった。僕が一ファンとして相撲というスポーツに何を求めるかといえば『真剣勝負』のみですから」