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大谷翔平と歴史的快挙。球団史上最速の“打球の初速”、リアル二刀流で目指す“未踏の領域”とは 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2021/04/10 06:00

大谷翔平と歴史的快挙。球団史上最速の“打球の初速”、リアル二刀流で目指す“未踏の領域”とは<Number Web> photograph by Getty Images

今季から初めて二刀流として公式戦に出場している大谷。4日の試合で先制ソロを放ったが、先発投手が本塁打を放つのは1933年のベーブ・ルース以来88年ぶり

 ア・リーグのチーム同士の試合でホームランを打った投手は、72年のロリック・ハリソン(オリオールズ)以来だ。翌73年からは、ア・リーグでDH制が採用されている。

 投手の打撃に関しては逸話が多いが、それは別の機会に譲ろう。いずれにせよ、DH制が採用されてからというもの、ア・リーグでは、自身の登板試合にヒットを打った投手すら珍しい。76年のケン・ブレット(ホワイトソックス)と2009年のアンディ・ソナンスタイン(レイズ)の名が、わずかに記録されているだけだ。

 好打と好守備で鳴らしたジム・カート(ツインズなどで通算283勝/232安打)は、73年以降、ア・リーグではほとんど打席に立たなくなったし、生涯に7度ノーヒッターを達成したノーラン・ライアンも、27年間で通算2本の本塁打しか打てなかった。

 一方、投手・大谷翔平は、やや不安を残す内容だった。4回3分の2で92球を投げて、失点3、自責点1。周知のとおり、野手の守備が乱れて不運な失点が重なり、勝ち投手の権利は逃してしまったが、100マイルを超える速球を9球も投げられたのは、やはり凡器ではない。

 イェルミン・メルセデスやルイス・ロベルトから奪った三振は眼を見張らせるものだったし、90マイルを超えたときのスプリッターは、強力なウィニングショットだ。ただ、問題はスライダーの精度がいまひとつだったこと。これが改善され、もっと楽にカウントを稼げるようになれば、投球術は確実に向上すると思う。対戦相手の右打者を泳がせるシーンが増えるようなら、われわれ観客の楽しみもぐんと増すだろう。

未完の大器が目指すべき目標

 それにしても、大谷翔平の歴史的位置づけは、今後どのように変わっていくのだろうか。

 ベーブ・ルースは、通算で147試合に先発し、714本の本塁打を放った(レッドソックス時代だけなら49本)。ジョージ・シスラーは12試合に先発し(主に1915年から16年にかけて)、102本のホームランを打った(15~16年では7本)。リック・アンキールは41試合に先発し、76本の本塁打を記録した(投手のときは2本塁打)。

 一方、投手の強打者に眼を移すと、ウォーレン・スパーンやボブ・ギブソンの名が浮かぶ。スパーンは665試合に先発して35本塁打、ギブソンは482試合に先発して24本塁打。打率の高さではドン・ドライスデールやジム・カートも忘れがたいが、強打の大投手といえば、スパーンとギブソンが双璧だろう。

 現役の先発投手ならば、マディソン・バムガーナー(296先発、19本塁打)とノア・シンダーガード(118先発、6本塁打)の名が挙がる。どちらもパワーピッチャーで、身体が大きい。未完成の投手・大谷翔平(13先発、49本塁打)には、とりあえず彼らのレベルをめざしてもらいたい。伸びしろは十分に残されているはずだ。未踏の領域に向かってあせらず前進する姿を、私は期待している。

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