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“球速132km”で阪神・佐藤輝明のバットをへし折った…ソフトバンク“残り1枠”を勝ち取った左腕の「独自理論」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph bySankei Shimbun
posted2021/03/29 17:00
2017年のドラフト、育成4位指名でソフトバンク入りした大竹耕太郎
今春の注目株だった黄金ルーキーの佐藤輝明とも対戦。内角高めの狙ったところに直球系球種のツーシームを投げ込みバットをへし折ってピッチャーゴロに仕留めてみせた。
この1球に、大竹というピッチャーの個性が凝縮されているように思えた。
バットを折ったこのボール、スピードガン表示は132kmだった。
「120kmでもいい」
大竹は今のホークスには珍しいタイプのピッチャーだ。投手という生き物は本能的に速い球を求めたがる。出力を上げるために体を大きくするピッチャーも多い。以前は筋肉の肥大は野球の動作において邪魔になると考えられたが、ウエイトトレーニングの方法も進化して近頃の野球界では大きく見直されている。
ホークスは12球団の中でも特に早い時期からウエイトトレーニングに力を入れてきた球団だ。それもあってこのチームの投手陣は総じて速い球を投げる。150km投手はもはや珍しくなくなり、エースの千賀が160km超を果たしたことでもう一つ上の世界を見据えているとさえ感じられる。
だからホークスの投手は、自分の思う良いボールを投げたうえで打者をねじ伏せてやろうという気概を持つ投手が多いように見える。それが決して間違いだとは思わないし、そんなピッチャーは見ていて絶対楽しいに決まっている。
しかし、そんな風潮の中で、大竹は敢えて逆向きな持論を展開する。
「球速があるから抑えられるわけじゃないと思っています。バッターに差し込めるならば何kmでもいい。それがたとえ120kmでも。その感覚が欲しいんです」
「140kmでもタイミングを合わせやすい速球になる」
だが、大竹とて欲にずっと打ち勝ってきたわけじゃない。苦い経験があるから今、それをはっきりと口にすることができる。
昨年は支配下登録後最少の一軍登板3試合に終わった。ただ、その中でも2勝0敗、防御率2.30の成績は残した。また、ウエスタン・リーグでは最多勝、最優秀防御率、最高勝率を獲得。一見すればチャンスのない不運なシーズンだったようにも思えた。しかし、小さなズレが生じていたことを大竹自身は気づいていた。
「球速のことは誰からも言われるところ。そこを意識しすぎるがゆえに、変な力みにつながっていた。方向性を間違うと、140kmだとしてもただのタイミングの合わせやすい速球になる」
昨シーズンは「ニーズに応えるのが選手の務め」と考えて球速アップを意識したが、それが逆効果だったという。
「自分の中で振り返ってみても、抑えた試合で球速を出そうと思った試合は一度もないですから」
「今しかない」ヒントをくれた工藤監督
自分が求めるべきものは何か。それを考えて「ギャップ」という答えにたどり着いた。