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“球速132km”で阪神・佐藤輝明のバットをへし折った…ソフトバンク“残り1枠”を勝ち取った左腕の「独自理論」
posted2021/03/29 17:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Sankei Shimbun
練習場の片隅で「三点倒立」をしている男がいた。ホークスの左腕、大竹耕太郎だった。
裸足でトレーニングしている男がいた。それも大竹だった。
グラウンドでキャッチボールではなく、やり投げをしている男がいた。やはり大竹だった。
ここ数年、大竹は独特な練習法を取り入れている。もちろん、その一つ一つに彼なりのちゃんとした理由がある。たとえば三点倒立。大竹自身はその狙いをこう説明してくれた。
「体の調子を見るための方法。自分の感覚と体をチェックするためにやっています。自分では真っ直ぐだと思っていても、実際には傾いていることがある。いまどれくらいズレているのか、そのズレの感覚をどう埋めていくのかを確認しています」
大竹は「周りから浮くかもしれないけど」と苦笑いする。好奇の目で見られるのは承知の上だ。ただ、プロ野球界において大切なのは周囲に流されない心を持つこと。言い換えれば、頑固者くらいが丁度いいのだ。成功者になれば、それは「個性」と称賛される。
開幕ローテ“残り1つのイス”
そんな大竹が、今シーズンの開幕ローテーション入りを勝ちとった。
6つの枠のうち開幕投手の石川柊太から高橋礼、和田毅とつながる開幕カードの3投手は春季キャンプ中盤の時期に早々に決まった。オープン戦に入ると、笠谷俊介と武田翔太が好投を続けてイスを勝ちとった。
残りは1枠。工藤公康監督はその1人をなかなか明言せず、競争はつい最近まで続いていた。思えば、ホークス先発陣は今のところ千賀滉大も東浜巨も外国人投手も不在という状況だ。
しかし、チーム内がドタバタする素振りなど全くなかった。それどころか相変わらず激しいチーム内競争が繰り広げられて「絞り込み」の作業が行われた。このチームの層の厚さはやはり桁違いだ。
阪神・佐藤輝明のバットをへし折った132km
大竹はそれを勝ち抜いたのだ。キャンプ中の紅白戦を含めて実戦は5試合に登板し、うち3試合が無失点ピッチング。計15イニングを投げて防御率2.40と安定していた。なかでも3月5日のタイガースとのオープン戦は3回完全投球の快投だった。