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東山高の春高バレー棄権から2カ月…“特別な試合”を用意したV1サントリーの願い「かわいそうだから」だけではない
posted2021/03/22 17:01
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Sankei Shimbun
あの涙から2か月。「東山」のユニフォームを着た高校生たちが、コートに帰って来た。
3月20日、Vリーグ男子サントリーサンバーズvs.大分三好ヴァイセアドラー。サントリーのホームである「おおきにアリーナ舞洲」では、試合に先立って東山高校と市立尼崎高校のエキシビジョンマッチが行われた。
試合前の練習時から、久しぶりの“試合”に臨む高校生たちは実に楽しそうだった。コートを彩る音響や照明……Vリーグの試合と何ら変わりのない環境と演出に、「すげー!」と喜び、キラキラと目を輝かせた。
市立尼崎のサーブから始まった3セットマッチの初戦、1点目を先取したのは東山だ。リベロの五頭寛大がレシーブし、セッター荒木琢真はライトの楠本岳にトスを上げる。ドンピシャのタイミングで放たれた1本は、まさに狙い通りだったと荒木が笑みを浮かべる。
「練習する時間は少なかったですけど、春高で出せなかった分、岳のライト平行は決めたかった。明日はもっといい形で、パイプももっと使って行きたいです」
荒木だけでなく、取材に応じる選手たちは皆同じだ。試合ができた喜び、試合をさせてもらったことへの感謝を口々に述べ「また明日」「明日はもっとうまくできる」と笑い合う。
涙の棄権からここまで、たった2カ月でこれほどまでに逞しく前を見据える姿。
だがその道のりは、容易いものではなかった。
春高の試合はまだ見ていない
1月5日に開幕した春高バレー。突如、東山の棄権が発表されたのは大会2日目を迎えていた7日だった。前夜、発熱者が出たためチーム全員が要観察対象になり、ウォーミングアップを終えた試合直前に棄権が告げられ、連覇の夢が絶たれた。加えて、未知のウイルスに対する恐怖を抱えながら、誰とも接触できない孤独も味わった。選手もスタッフも、それまで誰も経験したことのない出来事が次から次へ起こり、わけがわからぬまま投げ込まれた現実と必死で向き合ってきた。
検査や2週間の隔離生活を経て、学校や練習、それまでと変わらぬ日常が再び始まった。それでもすぐに気持ちを切り替えられたわけではなかった、と主将の吉村颯太は言う。
「春高は他の大会とは比べられない特別な舞台。(自分たちが)終わってからも春高の試合は見られませんでした。今も全然。試合はまだ、見られていないです」
LINEや電話でたまに連絡は取り合っていたが、心に抱える思いは1人1人違う。卒業後の進路が決まっていながらも夢だった春高を戦えずして終えた悔しさを拭いきれず「もうバレーボールなんてやりたくない」と思った選手もいた。