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東山高の春高バレー棄権から2カ月…“特別な試合”を用意したV1サントリーの願い「かわいそうだから」だけではない 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph bySankei Shimbun

posted2021/03/22 17:01

東山高の春高バレー棄権から2カ月…“特別な試合”を用意したV1サントリーの願い「かわいそうだから」だけではない<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

元日本代表で、現在はサントリーサンバーズのアンバサダーを務める荻野正二氏を中心に記念撮影を行った東山と市尼崎の選手たち

「先生、3年生を集めてもう一度……」

 誰のせいでもないとわかっているからこそ、やりきれない。

 だがそんな悔しさも見方を変え、前を向くエネルギーに変えたと言うのは楠本だ。

「なかなか切り替えられなかったですけど、これでバレー人生が終わったわけじゃない。むしろあんな状況でも春高を開催してもらえて、1試合だったけど、試合もできた。たとえ1つでもできるか、できないかで全然違ったと思うし、この経験をしたのは自分たちだけ。高校でかなえられなかった分、大学で勝ちたいと今まで以上に思うようになったし、今後の人生にも活きるんじゃないか、って思えるようになりました」

 1月下旬に全体練習も再開し、それぞれができる形で切り替える。サントリーサンバーズからエキシビジョンマッチの申し出があったのは、その頃だった。

「先生、3年生を集めてもう一度、大阪のホームゲームで試合をしませんか?」

 サントリーサンバーズの栗原圭介チームディレクターからの申し出を、東山・豊田充浩監督は「ただただありがたく、嬉しかった」と振り返る。

「あんな形で終わってしまいましたから。最後に戦う場をつくっていただいたサントリーさんはもちろんですが、卒業式を終えた生徒たちが進学する大学の先生方、対戦相手を引き受けてくれた市立尼崎の藤原(和典)先生。皆さんが快く、動いて下さったおかげで最高の舞台ができた。感謝しかないですし、だからこそ生徒たちには『やるからには、ただの思い出づくりではなく、しっかり勝って終わろう』と伝えました」

公式戦さながらの真剣勝負

 卒業後もバレーボールを続ける選手たちはすでにそれぞれ進学する大学での練習に参加していた。その範囲は関西に留まらず関東にも及ぶため、試合前に全員で練習できたのは卒業式の日だけ。全国制覇を狙い、細部の精度までこだわって練習を重ねた春高前と比べれば、自慢の攻撃も、ブロックとレシーブを連動させた守備も完成形には程遠い。

 それでも、重ねて来た成果を見せられるのはこれが最後。春高の1試合では出し切れなかった分をすべて出し切るとばかりに、エキシビジョンマッチでは東山らしい多彩なアタックが飛び出した。楠本のライトからのスピードを活かした攻撃や花村和哉のバックアタック、さらには大塚昂太郎や川村樹生の速攻、吉村の機動力を絡め、コートの至るところから同時に攻撃を仕掛けた。

 試合開始直後から10-1と大差で先行した第1セットを25-19で東山が先取し、第2セットも花村の連続サービスエースでスタートするなど、このまま東山が一気に試合を決めるかと思われた。しかし、市尼崎も意地を見せる。卒業後はV2・トヨタ自動車でプレーすることが決まっている佃壮悟のサーブから反撃に転じ、春高のセンターコートでも活躍した橘奎汰や坂本雄大も次々スパイクを決めて中盤に連続得点。そのままリードを保ち、25-19で市尼崎が奪取した。

 公式戦さながらの真剣勝負。東山、市尼崎の両校の選手だけでなく、この一戦に特別な思いを込めたのは主催するサントリーサンバーズも同様だった。

【次ページ】 主催したサントリーの願い

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