主催したサントリーの願い

　春高で予期せぬ事態に見舞われた東山に、単に「かわいそうだから」と試合の機会を与えるのではなく、各カテゴリーでトップクラスのチーム同士が対戦する機会をVリーグのホームゲームと同じ場に設け、バレーボールの魅力や価値を広く発信する。試合を観戦する観客だけでなく、その場に立つ選手たちもトップチームと同様の環境でエキシビジョンマッチを行うことで、3年生はすべてを出し切り、これからの東山、市尼崎、強いては高校バレーを担う選手たちに襷をつなぐ場にしてほしい――そんな願いが込められていた。

　多く人の思いによって実現した特別な試合は、フルセットの末に2－1で東山が勝利した。試合後、豊田監督はこう振り返った。

「試合前の選手入場も、1人1人の名前がアナウンスされてコートに入るのは春高のセンターコートと一緒やけど、これほどの演出はないですよね。今日彼らもこの舞台に立って『大学で頑張ればまたこういう場所でできるんだ』と、これから目指す形がハッキリ見えたと思う。育成の中では、プレーについて教えていくことも大事ですが、『またここでやりたい。こういう選手になりたい』と目標を見せていくのは本当に大切なこと。この場を設けていただいたことだけでなく、選手たちに“これから”を見せていただいた。本当に、サンバーズさんには感謝しています」

　試合を終えた両校の選手たちがコートに並び、皆が笑顔でスタンドに手を振り、笑う。声援こそないが、スタンドから声に変わって送られる太鼓の音と手拍子。Vリーグの試合を観戦に来た両チームのファンだけでなく、両校選手の家族も来場し、この1年で叶えられなかった目の前で試合を見る喜び、そしてその応援を背に受けながら戦える喜びをみんなで味わった。

それぞれの保護者もスタンドからエールを送っていた　ⒸMatthew Carmody／SUNTORY SUNBIRDS

　無観客だった春高では味わえなかった、音響にも劣らぬ力強い応援に「鳥肌が立った」と吉村は言う。

「もともと東山は応援が有名で、僕たちは応援に後押しされてきたんです。でもずっと、試合もないし、応援もない。今日久しぶりに聞いて感動したし、嬉しかった。この応援に僕らは応えていかないといけないんだ、と思いました。去年はこのユニフォームで、強い東山を全国に見せることができて、今年も見せたかったですけどそれができなかった。その分明日（の最終戦）、もう1回全国の方々に“東山はやっぱり強いんだ”と思ってもらえるようなプレーをしたいです」

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