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「お粗末、無能な議員どもだ!」 サッカーの聖地マラカナン改名騒動に功績者の孫が痛烈批判…怒りに震えるワケ 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2021/03/20 11:01

「お粗末、無能な議員どもだ!」 サッカーの聖地マラカナン改名騒動に功績者の孫が痛烈批判…怒りに震えるワケ<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

かつてのマラカナン全景。その独特なフォルムで愛された

「彼は自分の名誉には頓着しなかったから、この改名騒動には関心を示さなかったと思う。しかし、私が改名に反対するのは、彼の孫だからではない。1人のジャーナリストして、リオの、ブラジルの、世界のフットボールへの理解と敬意を欠いていいはずがないと思うからだ」

もし生きていたら、改修には徹底的に反対したはずだ

――スタジアムは、2014年W杯のメイン会場とするため、全面的に改修されました。このことについて、マリオ・フィーリョはどう考えただろうと思いますか?

「もし彼が生きていたら、2013年のスタジアム改修には徹底的に反対したはずだ。スタジアム建設に傾けたのと同じ情熱で、改修に反対する記事を書いただろう。彼が心血を注いで建設を訴えたスタジアムは、2014年W杯を前にして消えてしまった。今のスタジアムは、以前とは全くの別物だ」

 確かに、1950年に建設されたスタジアムと、2013年に改修されたスタジアムは、立地場所と形状のごく一部を除けば共通点がない。

 僕は、1986年に初めてマラカナン・スタジアムを訪れたときのことを良く覚えている。

 遠くから見ると、まるで青い宇宙船が舞い降りたようなフォルム。近づくにつれて、その巨大さに戦慄に近い感情を覚えた。

 スタジアムに入って長い螺旋階段を上り詰めると、だだっ広い廊下に出る。そこから小さな通路が出ていて、それを抜けると、突然、視界が大きく開ける。

 スタンドのはるか先に、色鮮やかな芝生のピッチが広がる。その光景に、息を飲んだ。スタンドではひいきクラブのユニフォームを着た男たちが巨大な旗を振り回し、のべつ幕なしに応援歌を合唱しながら試合開始を待ちわびている。

 印象的だったのが、ゴール裏の立見席だった。チケットの値段が格安とあって、貧しい身なりの男たちで超満員だった。試合が始まると、皆、伸び上がってピッチを凝視し、一つひとつのプレーに激しく反応し声を上げ、体全体で一喜一憂する。そんなブラジルの庶民の味方だった立見席は、FIFA基準には合致せず、改修を機に廃止された。

 スタンドは全席指定となり、西欧のどこかにありそうなモダンで、小ぎれいなスタジアムに生まれ変わった。その反面、ブラジルらしさが消え失せた。そのことを、マリオ・ネットは憤慨しているのだ。実は、僕も全く同じことを感じていた。

ペレについては、どのように思っていたのか?

――マリオ・フィーリョは、ペレについて多くの記事を書き、著書もあります。彼について、どう思っていたのでしょうか?

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