熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
サッカーの聖地マラカナン改名騒動… 「王様ペレ」なのに大反対、背景にある“剛腕ジャーナリスト伝説”とは
posted2021/03/20 11:00
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
Takuya Sugiyama/JMPA
欧米や他の中南米諸国と同様、ブラジルでは社会に顕著な貢献をした人の名を空港、道路、橋といった建造物などに付ける習わしがある。
たとえば、リオデジャネイロ国際空港は通称「ガレオン」だが、正式名称はボサノバを創った作曲家にしてミュージシャンの名を取って「トム・ジョビン国際空港」と何ともお洒落だ。1980年代から90年代にかけてF1で活躍して国民的英雄となったアイルトン・セナの名はサンパウロの高速道路、リオの大通りなどで使われており、ドライバーはついついスピードを出し過ぎてしまいそうになる(?)。
このように故人の名前が永遠に記憶されることは、本人のみならず家族や子孫にとっても大変な名誉となる。
ブラジルのフットボール・スタジアムには、たいてい正式名称と通称、2つの呼称がある。フットボールの聖地マラカナン・スタジアム(リオ)、サンパウロFCの本拠地でサンパウロ最大のモルンビー・スタジアム、ペレやネイマールが活躍したサントスFCの本拠地ヴィラ・ベルミーロ・スタジアムはいずれも通称で、所在地の名前(地区名)で呼んでいるだけ。正式名称は、それぞれ、「ジョルナリスタ(ジャーナリスト)・マリオ・フィーリョ」、「シセロ・ポンペウ・デ・トレード」、「ウルバーノ・カウデイラ」。スタジアム建設に尽力したりクラブに特筆に値する貢献をした人の名を冠し、最大限の敬意を表している。
政治家転身したベベットらも賛成票を投じた
3月9日、リオ州議会は、マラカナン・スタジアムの正式名称を「エジソン・アランテス・ド・ナシメント(キング・ペレ)・スタジアム」へ改名する決議案を賛成65、反対5で可決した。賛成票を投じた議員の中には、1980年代前半から2000年代前半までフラメンゴ、デポルティボ・ラコルーニャ(スペイン)などで活躍し、ブラジル代表にも選ばれて1994年ワールドカップ(W杯)で優勝し、引退後は政治家に転身したベベットもいた。
この議案を提出したのは、アンドレ・セシリアーノ州議会議長。彼はこのように説明している。
「私が言うまでもなく、ペレは世界サッカー史上最高の選手。このスタジアムで、サントスFCの一員として1962年と1963年のインターコンチネンタル杯(クラブワールドカップの前身)を制覇し、通算1000得点も達成した。ブラジル代表でも、数多くの重要なゴールを決めている。彼の名を正式名称とすることで、ブラジルさらには世界のフットボールへの貢献に報いたい」
そして「このことで、さらに多くの外国人観光客がスタジアムを訪れてくれるのでないか」という期待も口にした。