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なでしこ籾木結花は、なぜ森喜朗氏の“女性差別発言”を「これ、いい方向に進むんじゃないか」と考えたのか
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2021/03/14 06:01
なでしこジャパンでも活躍する籾木結花はサッカーを通じて日本を変えたいという思いを抱き続けている
日本には他の人と同じことをしないといけない文化が
アメリカに渡り、他者への視線の違いを痛感した。
「アメリカではすべて肯定から入るというか、その人がいいと思うならいいっていう風に受け入れてくれます。日本の文化や日本人のよさはありますが、他の人と同じことをしないといけないとか同じ意見でないといけないという文化が同時に存在している。人は一人ひとり違うというのが普通で、一人ずつ違う個性があって、それを受け入れるのが目指すべき社会だと思います。でも今、日本はそうなっていない。性別とか外見とか性的指向とか肩書とか、みんな取っ払ってただ目の前の人を受け入れるということができる社会になれば日本も幸せな人が増えるんじゃないかと思うので、それを実現したいなと」
人は多様であることを理解したのはいつだったのか。
「中学も高校も、ほとんどの人は学校で授業が終わったら部活をして家に帰る。自分は学校が終わったら駅に向かって練習に行って、夜遅く帰ってきて」
人と異なる生活を送りつつ、でもそれを受け入れてくれる友達ができた。
「自分がどれだけ結果を残して代表に入って、世間的には階段を昇っているように見えても、そういったものを取っ払ってただ自分と一緒にいることを楽しんでくれる人たちがいることが、すごく心地いい。自分もそういうのを取っ払って人を見たいと思います。自分の取り巻く環境と自分の根底にあるパーソナリティと、ラピノー選手の発言があわさって自分の考え方になっているのかなと思います」
「自分と向き合えている人って実は多くはない」
日本ではまだ一人ひとりが違うこと、多様であることへの意識は弱い。そのために「自分は人と違うんだ」と苦しむ人がいる。
「日本で“自分は人とは違う”と苦しんでいる人以外にも、実は自分自身と向き合えていない方も多いんじゃないかと思います」
籾木自身「自分は人とは違うな」と長年感じ続けてきたが、では自分が一体何を目指しているのか、何をしたいと思っているのか、自分自身のことををきちんと考えることはあまりなかったという。
「自分がサッカーで世界一をほんとうに目指しているのかどうか、メディアの方の質問をきっかけに考えるようになったんです。おそらくサッカー選手の中にも自分の目標を本心から言っているのか、まわりの期待に応えるために言っているのか、分かっていない人も多いと思います。自分と向き合えている人って実は多くはないんじゃないかな」