濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
キックから“卒業”予定、那須川天心が“ポスト天心”を「キツいですよ。1人じゃ無理」と表現するワケ
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRISE
posted2021/03/13 11:04
志朗戦を制した那須川天心(右)は試合のみならずその力のある言葉で多くの人々を魅了してきた
那須川と志朗は「考えることが似ている」
志朗はヒジ打ちや組みついて相手の体勢を崩す首相撲のあるムエタイルールから、ヒジ打ち禁止、組み付きも制限されるRISEに対応すべく練習を重ねてきた。
これまでとルールが違う闘いに挑んだのは、そこに那須川天心という当代最高のファイターがいるからだ。打倒・天心のためにボクシングスキルを磨きに磨いた。
そんな“天心対策”の裏をかいて、那須川は蹴りを叩き込んだ。「考えることが似ている」とは那須川と志朗に共通のコメントだ。那須川は「頭が疲れる試合でした」とも語っている。
裏を読み、さらにその裏を相手に読ませて自分は正面から。そんな駆け引き、引き出しの勝負だったという。戦前から言及していたスピードについても、さまざまな引き出しをあけていたようだ。
「蹴りはメチャクチャ速く打って、パンチは遅く打ちました。0.5、1(拍)くらい間をあけたり。志朗選手は僕のパンチの速さを研究してきたはず。そこで蹴りは速く、パンチは遅くすることでギャップが生まれるんです。なかなか見てる人には分かりにくいと思いますけど」
パンチはタイミングを遅らせるだけでなくハンドスピードそのものも変えた。野球で言えば蹴りが直球でパンチがスローカーブ。志朗戦は豪速球でならす奪三振王が変化球を使い、内野ゴロの山を築いたような試合だった。
自分が考え、実行したことを明確な言葉にできる
プレイヤーとしては、こういう試合ならではの手応えがあるのだと那須川は言う。相手からすれば、まったくもって手に負えないわけだが。
那須川天心という選手の人気の源は、こうしたコメントにもあるような気がする。ジムや試合のリングで自分が考え、実行したことを明確な言葉にすることができるのだ(しかも試合直後に、である)。ファンはスター選手の圧倒的パフォーマンスを堪能し、知ろうと思えばその先に深い解説もある。