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中日・与田監督の頭から「かなり早い段階」で消えていた? 開幕投手はなぜ大野雄大ではないのか
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2021/03/06 11:04
春季キャンプでは慎重にブルペン投球を重ねた大野(右)。与田監督はその状態を常にチェックしていた
かなり早い段階で与田監督の頭から「大野」は消えていた
実際、沖縄キャンプの大野は、スロー調整に終始した。初日から元気に投球した昨シーズンとは打って変わり、ブルペンに入るのは1クールに1回。故障ではないが、万全とも言いがたい。探り探りの状態なのは明らかだった。そんなエースからのシグナルを、与田監督が見過ごすはずはない。当初は「2月下旬には」と言っていた開幕投手公表のタイミングがどんどんずれ込んでいったのは大野に執着していたからではなく、むしろその逆。早く指名してしまったがゆえに、責任感の強い大野が無理をしてでも開幕に合わせようとすることを恐れたからだ。
大野と福谷、柳裕也の3人を「候補者」だと言ってきたが、おそらくかなり早い段階で与田監督の頭から「大野」は消えていた。少なくともそうなることを想定して、人選を進めてきたはずだ。
中日としては2018年の小笠原慎之介以降、笠原祥太郎、大野、そして福谷と4年連続で前年とは違う投手が大役に指名されている。まずは福谷と大瀬良のマッチアップでシーズンの幕は開き、柳は第2戦。大野はネーミングライツで名称変更されたバンテリンドームの第1戦(3月30日)を任されることが濃厚だ。
結果的に戦略的なメリットも大きい
与田監督は本拠地開幕やその相手が巨人であることを考慮し、戦略的に大野の開幕を回避することはないと重ねて否定してきた。もちろんその言葉に嘘はないが、開幕カードから外すことによって、今後の大野がフィジカル面に不安を抱えたとしても申告しやすくなるというメリットはある。開幕投手というのは、ある意味で通達した側も、された側も退路が断たれる。バックするには相当な勇気と決断が必要だからだ。
新たなスタートを切る本拠地の最初のマウンドをエースに任せる。長年のライバル・巨人が相手ならなおのこと……。そんな「戦略説」を採用したわけではないとしても、結果的に戦略的なメリットも大きい。大野はナゴヤドーム(バンテリンドーム)の申し子である。通算37勝32敗、防御率2.36。昨シーズンは11勝のうち、実に9勝(2敗)がホームグラウンドだった。対して開幕カードを戦うマツダスタジアムは、通算2勝6敗で防御率4.50。2014年を最後に勝ったことがない。
大野の試合は落とせない。開幕を143分の1と考えるか、143分の143と考えるのかは昔から言われることだが、どこに勝っても1勝だと割り切るのなら、なおのこと3月30日は大野で行くべし。勝つ確率が高いのだから。