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「ようやく方向性が見えてきた」3年の試行錯誤を経て、高梨沙羅「金メダルを獲れる器」の証明へ
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFP/JIJI PRESS
posted2021/02/20 06:01
2月7日、オーストリアで行なわれたワールドカップ第7戦で優勝した高梨。2位のニカ・クリズナー(左・スロベニア)は20歳と、自分より若い世代との首位争いが続く
「楽しく飛べました」というジャンプで銅メダルを獲得したのである。
一方で、悔しさも残った。
「やはりまだ、自分には金メダルを獲る器はないと思わせてくれました。次の4年間で、金メダルを獲れる器になっていくしかありません。ここから仕切り直して、また新しいスタートを切っていきたいです」
そのときから、2022年の北京五輪を目標として定めてきた。もう一段飛躍するために、向上心をもって試行錯誤を繰り返した。
それがために、2018-2019、2019-2020シーズンはワールドカップ総合成績でともに4位に終わり、それまで7シーズン続けてきた3位以内から落ちた。
ときに、辛そうな表情を見せ、言葉を口にした。
「試していることが、ことごとく失敗続きになっています」
「(ジャンプ台ごとの助走路の)形状の違いに合わせていけない自分がいます」
それでも、「自分を変えていかなければいけないと思います」と前を見続けた。
見えてきた理想のジャンプ
そんな苦しい時間を過ごし、自分をいかせるジャンプにたどり着きつつあることを示したのがここ2戦の優勝だ。また、今シーズン全体を見渡してもジャンプの安定感が伝わってくる。
飽くなき向上心もある。昨年10月、弘前大学大学院に入学。同大学院の医学研究科に籍を置く高梨は、スポーツ医学研究を競技力を高めるためにいかしたいと考えているという。競技のために、トレーニングのみならず、幅広く努力を重ねてきて、今シーズンは手ごたえを得つつある。
一方で現在、ワールドカップ総合成績で首位のマリタ・クラマー(オーストリア)が19歳であることが象徴するように、今シーズンは若い世代の成長も見られる。
その中で、2011-2012シーズンにワールドカップ総合成績で3位に入り、以降10年にわたって世界のトップを争う位置に居続け、今日がある。
「ようやく、方向性が見えてきました」
その言葉を、より確信のあるものとして、オリンピックイヤーにつなげるためにも、世界選手権は試金石となる。