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他球団スカウト「その目は節穴かと言われました」 5年前、なぜ他の11球団は“ドラフト9位”佐野恵太を指名できなかった?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2021/02/10 17:03
2020年シーズン、打率.328で首位打者に輝いた佐野恵太(DeNA)
「ウチは、キャッチャーでの可能性、探ってました。高校(広島・広陵高)でやってたって聞いたんで。でも、いろいろあたってみたら、本人断ってたらしいんですよ、大学で。肩は強いし、惜しいなぁって。バッティングに関しては評価してましたけど、やっぱり“左打者”のニーズが強くないんですよ。自分の球団の左打者との比較になるとね」
面白い切り口で“解説”してくれたスカウトもいた。
「あの年、日本ハムが専修(大学)の森山(恵佑・引退)を4位で指名したんですよ。それで、佐野を推せなくなっちゃった。ウチは、佐野をリストに残して、森山は消しだった。その森山が4位でしょ。左の外野手が4位って、かなり高い評価ですよ。消してる森山が4位ってことは、その年の大学生のバッターは低レベルだってことになる。『佐野いきましょう!』って言える雰囲気じゃなくなっちゃった」
「高校生で清宮、安田、村上がいたでしょ」
当時のスカウトの方たちにとっては、おそらくはあまり思い出したくない話だったことだろう。その中で、私がいちばん納得をもって、スッと胸に落ちた話は、こんな「事情」を教えてくれたスカウト談だった。
「六大学のリーグ戦は、第1試合のチームが試合前にバッティング練習しますよね。僕は、そこから見てますけど、ポイントは『最初のスイングでどれだけジャストミートできるか』そこなんです。選手が代わるがわるケージに入って打つわけですが、その最初のワンスイングでどれだけ精度を出せるのか、100%の打球を飛ばせるのか、そこを見てるわけです。プロは、ファーストストライクをひと振りで仕留められるかどうかですから。それが、まさに『佐野』だったんですよ。最初のワンスイングで左中間フェンスを直撃したり、ライトスタンドに持っていったり。バッティングだけなら、同期の同じ左打者で、京田(陽太、日本大学→中日2位)より上じゃないかと思ったぐらいでね。でも、やっぱり、ポジションですよ」
「獲れた逸材」を見送ることになった。