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他球団スカウト「その目は節穴かと言われました」 5年前、なぜ他の11球団は“ドラフト9位”佐野恵太を指名できなかった?
posted2021/02/10 17:03
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
BUNGEISHUNJU
昨年のペナントレース、「横浜・佐野恵太、首位打者獲得」ほど驚いたことはない。
2019年は89試合ながら打率.295。クリーンアップに座ることも多く、大ブレークの兆候はあったものの、まさか一気に打率.328、20ホーマー、セ・リーグの首位打者に輝くとは……。
昨年の「佐野恵太」を見ていると、いつも打っていた――そんな印象が強い。特にシーズン後半は、佐野選手がスイングするバット目がけて投手がボールを投げているような、投球が彼のスイングに吸い込まれていくような、そんな錯覚さえおぼえたほどだ。
「確かに、筒香(嘉智)がメジャーに行って抜けたり、佐野にとっては追い風が吹いたりしたけど、そういうチャンスをぬかりなく掴める選手って、プロでも意外と少ないんですよ。立派なもんです」
ある球団関係者が、「昨年の佐野恵太」をこう語ってくれた。
「シーズンの最初の頃は、内角を差し込まれたりして、まだドアスイング傾向だった。内側から振り出す感覚をつかんで、スイング軌道がどんどん良くなって、コンスタントに数字が上がっていった。左ピッチャーを苦にしないし、空振りを恐れずにボールを呼び込んで、変化球にも対応できるんですね」
確かめてみたら、昨年の佐野恵太は右ピッチャーも左ピッチャーも、まっすぐも変化球も、すべてほぼ3割3分前後の打率。実に「コンスタント」な結果を残していて、これには驚いた。短期間に、すごい打者になったものだ。
5年前、他の11球団はなぜ佐野恵太を指名できなかったのか?
ふと考えたことがあった。
これだけの才能を持った打者が、2016年のドラフトで、なんと「9位指名」。明治大学の4番打者だった彼が、支配下ドラフトの最後の最後まで“放置”され、いちばん最後から4人目(指名87選手の84番目)に、ようやく指名されたという事実。
他の11球団は、どうして「佐野恵太」を指名できなかったのか?
現場のスカウトの方たちに訊いてみることにした。