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高3で新人王に→センター試験まで2カ月半で勉強開始→大阪大合格… 父が知る糸谷哲郎八段の“受験勉強術”とは
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byYasuhiro Itodani
posted2021/02/06 06:02
幼少期、羽生善治九段と写真に収まる糸谷哲郎八段(右端)
――YouTubeなどで美人棋士と仲良くトークをしたりして、ファンの間では「お似合いのカップル」と言われ、「2人はいずれ結婚するのでは……」といったある種の期待があるみたいだけど……。
「ああ、香川愛生さんだね。もしそうなれば、親としては嬉しい。でも、変なことを言うと息子に叱られるから、僕からは何も言えない(笑)」
持って生まれた頭脳と努力、周囲のサポート
このインタビューは、広島とサンパウロで、Zoomを使って行なった。広島学院時代の思い出話も加わり、延べ十数時間に及んだ。
糸谷康宏氏と再会したのは高校卒業以来、実に47年ぶりだった(その少し前、やはりZoomで広島学院の同窓会をしていたのだが)。しかし、中学、高校時代の話をしていると、半世紀近い時の隔たりはあっという間に埋まったような気がした。
飛び抜けた秀才だった康宏氏が「1、2歳で、息子は自分とは頭の出来が違うと思った」と語るのには本当に驚いた。大人でも読むのが容易ではない『三国志』を小学校低学年で読破し、プロ棋士を目指す一方で、極めて短い準備期間しかなかったのに難関の大学を現役で合格したことにも驚嘆した。
糸谷八段が、生まれつき頭が飛び抜けていいのは間違いない。とはいえ、両親、祖父母ら周囲の人々のサポートを受け、本人が膨大な努力をしてきたのも確かだろう。
当初、「勉強と将棋をいかにして両立したのか」という見立てで質問をしていた。しかし、康宏氏から話を聞くうち、「色々なことをやった方が能力が伸びる」と考える糸谷八段は「両立させた」のではなく「相乗効果で両方の能力を延ばした」のだと気が付いた。
しかも、自分のことしか考えないのではなく、棋士としての本分を全うする以外にも将棋の普及に多くの時間とエネルギーを費やしている。
それはきっと、高校3年の秋に新人王戦で優勝した際に「将棋界は斜陽産業。僕たちの代で立て直さなければ」と若者らしく果敢に言い放ったコメントの後半部分をずっと忘れていないからだろう。
2月6日に開幕する棋王戦、名人と王将も保持する渡辺明棋王への挑戦が楽しみだ。