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阪神タイガースのレジェンド・藤川球児がプロ野球生活で学んだ自分らしい人生の歩み方 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph byShigeki Yamamoto

posted2021/02/10 11:00

阪神タイガースのレジェンド・藤川球児がプロ野球生活で学んだ自分らしい人生の歩み方<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

70歳、80歳になっても……

 野球界には監督になりたい、コーチになりたいという人が山ほどいます。こだわり続けた人は名球会に入れたり、殿堂入りしたり、とんでもない成果が生まれるかもしれない。でも僕は、そうじゃなくても幸せを感じる生き方があるから、違う人生をめちゃくちゃ楽しもうと思っているんです。

 だって、ポジションを目標にしている人ほど、今が疎かになってしまっている人が多くないですか? それにマウントを取れるようなポジションで仕事をしたいという発想をする人は、最終的には人望もなくなると思います。

 それよりも70歳、80歳になってもあれもしたい、これもしたいと挑戦する希望が持てる人生の方が楽しいし、幸せだと僕は思うんです。

喜びや幸せはゆるくていい

 クローザーとして起用される時、僕は首脳陣に「藤川が一番向いてるから、どんな形でもそのままやってくれたらいいから」と言ってもらったんですね。

 でもこれが「一番大変なポジションだからお前しかいない」って言われたら、めちゃくちゃやりづらい(笑)。

 阪神は関西のチームなので「はい、次行こう!」みたいなテンションでベンチからブルペンに電話がかかってくる。受けたこっちも「じゃあマウンド行こうか!」という感じなんです。ところが「次はお前にいくから、後ろのピッチャーに頑張ってつなぐんだ」という球団もあって。正直、重すぎるんですよ(笑)

 この選手ならできると思って任せているのだから、それ以上のプレッシャーをかける必要はない。責任が重いとわかっているなら、上司はなおのこと軽く言ってあげないといけないのではないでしょうか。

 選手は我慢して我慢して、我慢し切って、二度とこんな経験をしたくないと思いながら、その恐怖と戦って成果を出しています。もうこんな経験はしたくないと思っても、そういう場面は何度も訪れる。僕はそれを何度か経験して、最終的にはどっちでもいいやと思ったら、めちゃくちゃ楽になりました。

 今の僕は極端な幸せや喜びのない人生を送りたいと思っています。喜怒哀楽ってあるでしょ。喜ぶと哀しいが極端だと、間に挟まれた怒りや悲しみもその分大きくなる気がするんです。ドーン!っていう極端な喜びって一瞬で終わるけれど、家族とともに過ごすような時間は、長い喜びを与えてくれるし、自分もリラックスできる。

 だから喜びや幸せはゆるくていい。これからの世の中には、そんなゆるさが必要になってくるんじゃないか。そんなことを引退した今思っています。

藤川球児

藤川 球児Kyuji Fujikawa

1980年7月21日、高知県生まれ。高知商高では2年時に夏の甲子園に出場。1998年のドラフト1位で阪神タイガースに入団。2005年にはセットアッパーとして80試合に登板しリーグ優勝に貢献。翌年途中からは絶対的守護神として活躍。2007年にはセ・リーグタイ記録となる46セーブをマーク。2013年からはMLBに挑戦しシカゴ・カブス、テキサス・レンジャーズに在籍するも、2015年5月に自由契約となり四国ILの高知ファイティングドッグスに入団。2016年に阪神に復帰。主に中継ぎとして活躍するも、昨年限りで現役を引退。2021年より阪神の「スペシャルアシスタント(特別補佐)」を務める。

ナビゲーターの俳優・田辺誠一さんがアスリートの「美学」を10の質問で紐解き、そこから浮かび上がる“人生のヒント”と皆さんの「あした」をつなぎます。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。

第146回:藤川球児(野球)

2月12日(金) 22:00~22:24

元プロ野球選手の藤川球児さんは昨年惜しまれつつユニフォームを脱いだ阪神タイガースのレジェンド。引退後は、阪神のスペシャルアシスタント(特別補佐)に就任し、新たなシーズンを迎えようとしています。MLBや独立リーグも経験し、チームと競争の本質、若い頃にするべきチャレンジ、ピンチの乗り越え方など、自身のキャリアを丁寧に振り返りながら、美しい言葉を紡ぎます。番組では趣味のバスフィッシングでリラックスする様子にも密着。オフだからこそ垣間見ることができた“人間・藤川球児”の姿とは? そして、まさかの釣果とは?

第147回:長谷川唯(サッカー)

2月19日(金) 22:00~22:24

サッカー女子日本代表の長谷川唯選手は高校時代から国内屈指の強豪日テレ・東京ヴェルディベレーザで活躍。司令塔として数多くのタイトル獲得に貢献しました。1月29日に迎えた24歳の誕生日にはイタリアのビッグクラブACミランへの移籍を発表。渡欧を前に「日本でやっていたことがどれだけ通用するのかを確かめながら、どんどんチャレンジしていきたい」と力強く語ってくれました。番組ではベストスコア243という趣味のボウリングに同行すると、彼女の意外な素顔が明るみに? また「早く結婚したいです」という言葉から、女性としての人生プランにも迫ります。

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