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名手・飯田が“まさかの落球”…裏にあった石毛の叫び、森祇晶と野村克也の“共通認識”とは【伝説の日本シリーズ】
posted2021/01/26 11:02
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph by
Naoya Sanuki
※本稿は『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)の一部を抜粋、再編集したものです。
神宮球場のマウンドに立った背番号《15》は無心だった。
試合前にはまったく身体が動かなかったのに、球審・谷博による「プレーボール」の声を聞くと同時に、まるで何事もなかったかのように身体が動き出す。
初回は2番・大塚に詰まった当たりでライト前ヒットを打たれたものの、3番・秋山、4番・清原を簡単に打ち取った。まるで疲れを感じさせない、上々の立ち上がりだった。
対する石井も、ストレートを中心に初回を三者凡退で切り抜けた。こちらも、ほぼ一睡もしていないとは思えない上々の出来だった。
両投手は3回を終えて無失点。試合が動いたのは4回裏、ヤクルトの攻撃だった。
西武のミスで先制、ヤクルトファンの歓喜が爆発した
この回先頭の1番・飯田がレフトへツーベースヒットを放つ。この試合で初めてスタメン起用されたレフト・安部のまずい守備に助けられたが、これがヤクルトの初ヒットとなる。野村もまた「この試合は一点勝負だ」と考えていた。ノーアウトでの出塁。しかも、ランナーは俊足の飯田だ。作戦は1つしかなかった。
左打席に入った2番の荒井は、最初からバントの構えをしている。カウントワンボールワンストライクからの3球目、荒井の打球は三塁前に転がった。定石通りのナイスバントだった。マウンドから石井がすばやく駆け降りる。三塁は間に合わない。キャッチャー伊東の指示に従い、石井は一塁に送球する。
しかし、この送球が打者走者の荒井と交錯する。一塁カバーに入ったセカンドの辻は捕球できない。白球は一塁側ファールグラフンドを転々とする。これを見て、三塁ベースに到達していた飯田が悠々とホームイン。待望の先制点は相手のミスから献上された。緑色のメガホンを持って、必死に声援を送るヤクルトファンの歓喜が爆発する。石井は言う。
「僕は元々、バント処理がうまくないんです。むしろ、普通よりもちょっと下手なぐらい。この場面は焦ってしまった僕のミスです……」
ついに、試合が動き出した。この1点が岡林に、そして石井にどう影響するのか?
リードをもらった岡林は、この1点をさらなる力に変えた。
5回表には安部にセカンド内野安打を打たれたものの、後続を断ち切った。続く6回表は2番・大塚、3番・秋山、4番・清原と上位打線が立ちはだかった。
しかし岡林は、大塚にはスライダーで、続く秋山には力のこもったストレートで連続して空振り三振を奪った。そして、4番の清原にはアウトコースのカーブで見逃し三振。
三者連続三振―― 。
中3日での登板とは思えない、気迫のこもった見事なピッチングだった。