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天理大優勝の立役者フィフィタを覚醒させた“劇薬”とは…来日7年、好きな日本語は「勇気」心優しい青年の夢
posted2021/01/26 11:00
text by
倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)Yohei Kuraseko
photograph by
SportsPressJP/AFLO
人が変わるのは簡単ではない。よほどの覚悟がなければ都合がいい方に流される。だから、天理大CTBシオサイア・フィフィタ(4年)の変わりっぷりには、驚かされた。
1月11日の全国大学ラグビー選手権決勝の早稲田大戦では、名うてのトライゲッターが黒子に徹していた。「ワールドクラスの突破力」というカードは、ここぞの場面でしか出さない。大半の時間は、187cm、105kgのパワーと50mを6秒前半で走るスピードをおとりにして、相手を引きつけて、パス、パス、キック。
「自分でも行ける準備と、この大会に向けて周りを使うことを意識してきた」
個人のノートライは意に介さない。むしろ、チーム8トライ、決勝史上最多得点の55-28で圧勝したことが誇り。チームの攻撃を寸断させる恐れがあった強引さは、影を潜めていた。
決勝前夜、都内のホテルのベッドの上でトラウマが甦った。2大会前の決勝の悪夢だ。明大を猛追し、1トライ差。敵陣まで押し寄せた連続アタックでノックオンを犯し、ノーサイドを告げられた。悔しさから、その試合の映像を一度も見たことがない。それにもかかわらず、「寝る前に急に出てきた」と、突然、あのミスが脳裏に甦った。
「2年前の決勝を思い出して、自分がいらんことをして、ミスをしたらみんながしんどくなるだけだから、周りを生かそうと思った」
早稲田大との決勝は、2大会前の苦い思い出が「薬」になったのは確かだ。ただし、その薬は、乗り物の「酔い止め」程度のもので、プレースタイルを変えるほどのものではない。周囲を生かすプレーは、関西リーグでも全国大会でも見せていた。変化は、1年近く前から始まっていた。
フィフィタを変えた劇薬
3年生の2〜3月、「サンウルブズ」の一員としてスーパーラグビーに参戦した。トンガで過ごした幼少時から憧れた舞台が、フィフィタを変える「劇薬」になった。
「すごくレベルが高いと思った。アタックは絶対に負けない自信が付いたけど、スキルとスピードが全然足りないと感じた」
WTBとCTBで6試合に先発して2トライを挙げた一方、ハンドリング、パス、キックなどの基本がおろそかだったことを思い知らされた。同時に、スタミナのなさも痛感させられた。新型コロナウイルスの感染拡大でシーズンが打ち切りになり、天理大に戻ると、人が変わったように走り込んだ。