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「普段の研究は息苦しい。でも対局の現場では…」渡辺明名人が脳研究者に明かしたAIとの距離感とは
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKei Taniguchi
posted2021/01/13 18:00
Number将棋特集第2弾で対談を行った池谷裕二東大教授と渡辺明名人
渡辺 将棋の世界ではAIが入ってきてみんなの将棋が同じになっていきました。個性が発揮しづらくなったとか、新戦法が出にくくなったとか、その息苦しさはこの2、3年で本当によく聞くようになりました。AI以前から新しい戦法というのはどんどん少なくなっていて、昔の戦法を再活用する繰り返しの部分がありましたから、将棋というゲームが煮詰まっていく危機感は以前から抱いていました。
「10秒、20秒……」とカウントされる中で正しい手をさせるか
池谷 あんなに広い世界でもそうなんですね。
渡辺 ただし、その日の一局でいえば、別の感情もあります。どの作戦を持ってくるか、どうやって相手の戦略の裏をかくかなど、対局の現場ではいつも様々な人間らしさはあるんです。
池谷 人間はミスもしますからね。
渡辺 AIにこれもだめ、あれもダメと言われて、普段の研究の息苦しさはどうしてもありますけど、対局中に「10秒、20秒……」とカウントされる中で正しい手をさせるかどうか、その場の空気感は不変で、昔と変わらない魅力があります。
池谷 それを聞いて安心しました(笑)。「人間らしさってなんだろう」というのはAIが突きつける最大の哲学的課題です。将棋にも「人間的」だからこそ持つ魅力はきっとあるだろうと信じていましたから。
10年後「将棋のルールはどんどん変わっていく」
渡辺 AIの登場は将棋が始まって以来最大の技術革新でした。当初はこれからAIを使って研究すれば色々わかるぞっていう高揚感があったのが、その段階はもう終わって、最近は研究ばかりで大変になってきたぞ、という感覚になってきました。先生はこの先の将棋はどうなっていくと思いますか? 10年後、20年後、今と同じようなことをやっていると思いますか?
池谷 こういうことを言うと不謹慎かもしれませんけど、“調整”が入るんだと思います。持ち時間の面などで、新しいルールを導入する。スポーツの世界では時代や技術の進歩に合わせて、どんどんルールは変わっていますよね。それと同じで、将棋も新たなルールによって楽しさを維持する方向に行かなきゃいけない時がくるでしょう。今はまだいいですが、AIはもっと躍進してきますよ。
また地頭のいい人が強くなる
渡辺 まだまだ強くなるんですか? もう食傷気味ですが(笑)。