濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
新人だけの東京女子プロレスを導いた“アイドル”の教え「最初はなんで試合を見に来てくれるのかなと」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTokyo Joshi Pro-Wrestling
posted2021/01/11 17:01
辰巳リカ(左)は1月4日の後楽園ホール大会で勝利し、ベルトを巻いた
アイドルの世界から団体の方向性を学んだ
デビュー当時のリカたちの試合は、誰の目から見ても拙いものだった。初期の大会は選手が少ないためアイドルのライブとの合体イベントとして開催。だがそれが特色にもなった。アイドルファンもいる中での試合だったこともあってか、東京女子プロレスには“選手の成長を長い目で見守る”という雰囲気ができていった。東京女子プロレス事業部長を務める甲田哲也はこう説明する。
「アイドル文化との共通点はあったと思います。一番は成長を見ていくこと。東京女子が旗揚げした当時の女子プロレス界はキャリア20年以上のベテラン選手が目立っていた。でもこの団体ではデビューしたての選手が徐々に完成していく姿を見せようと。新人の未熟さはただのマイナスではなくて、そこから見ていることで成長を確認できる。今でもそうです。若手は“二軍”ではなくて、むしろそっちこそ主役という感覚があります」
完成品を提供するのが“プロのアーティスト”なのだとしたら、アイドルは未完成な部分もさらけ出し、成長のドラマを見せる。東京女子も同じだった。
甲田自身もアイドルファンとして知られる。きっかけは団体旗揚げを前にさまざまな女子スポーツ、エンターテインメントを勉強したことだった。女子格闘技、女子プロ野球などたくさんの会場を訪れる中で最も参考になったのがアイドルの世界だったそうだ。
「成長を見せるというのもそうですし、物販(グッズ販売に伴うサイン会や撮影会)もアイドルの世界から学びました。それまでは“何を買ったらどんなサービスがあるのか”というレギュレーションが漫然としていた。それを整備したんです」
「東京女子の魅力は、選手が楽しそうにやってること」
選手がグッズ売り場に立ち、買ったところで「サインいいですか」、「写真撮らせてもらえますか」とファンがリクエストする。OKかどうかは選手それぞれ。そういうプロレスの“売店”文化を、アイドル同様の“物販”システムにしたことは近年の女子プロレスの大きな変化だと甲田は語る。2ショット撮影会でチェキを使い始めたのも東京女子が最初だろうと言う。
「東京女子プロレスでは、アイドルのライブと同じで物販もライブショーを構成する重要なパートなんです」
最初は甲田にも確信はなかった。試合の激しさや技のレパートリーは従来の女子プロレスとは比べ物にならない。それでもあえて軌道修正はしなかったそうだ。
「こんなこと言ったら怒られるかもしれないですけど、最初は“ファンの方はなんでこのレベルの試合を見に来てくれるのかな”と思ってました(苦笑)。新しいものだから何をやるのが面白いのか、何が正しいのか分からなかった。でも分からないから、指針を打ち出さなかった。その結果、いい意味でも悪い意味でも伝統やしがらみから自由な団体ができました。いま言えるのは、東京女子の一番の魅力は、選手が自由に楽しそうにやってることかなと」
現在の東京女子プロレスは、若手の成長からタイトルマッチの激闘まで、その振り幅も魅力になっている。バラエティ色はDDT以上だと高木。同時に「試合のクオリティに関してはどこにも負けない」とも。