濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
新人だけの東京女子プロレスを導いた“アイドル”の教え「最初はなんで試合を見に来てくれるのかなと」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTokyo Joshi Pro-Wrestling
posted2021/01/11 17:01
辰巳リカ(左)は1月4日の後楽園ホール大会で勝利し、ベルトを巻いた
「やっぱり強くて、凄すぎて、最高の同期です」
坂崎の前回のタイトルマッチは、タッグパートナーである瑞希が相手だった。対戦が決まっても2人はタッグを組み続けた。憎いから闘うわけではない。だから組むことに抵抗はなかった。ただ試合中にアシストされるのは嫌だと瑞希が涙を見せる場面もあった。その心情の複雑さが、まさに“リアル”だった。
DPGから始まった2人の歴史を背負ってのリング。リカはこれまでのキャリアすべてをぶつけるような試合をした。得意技のドラゴンスクリュー、ヒップアタックを何度も繰り出す。足4の字固めは2度エスケープされたが、それでもこの技でフィニッシュを狙う。3度目でついにレフェリーが試合を止めた。
新技ではなく、これまでの自分を形作ってきた技を何度も出す。そこに辰巳リカの〈叫ばなければやりきれない思い〉が込められていた。技そのものが彼女の叫びだった。坂崎は試合後「最後は根性負けでした」と語っている。
「初期から使っている技を、何回返しても使ってくるしつこさ。リカの泥臭さ、絶対に自分のほうを見てもらうんだっていう気持ちが伝わってきました」
そして新チャンピオンに「このまま突っ走ってほしい」とエールを送ったのだった。勝ったリカは、まず坂崎を称えた。
「やっぱり強くて、凄すぎて、最高の同期です」
自分の試合ぶりについては「執念」だと振り返った。
「戦略で勝ったとかじゃない。ただ執念で勝った。今日は私が勝った。それだけです」
2人でタッグベルトを巻いた渡辺未詩が挑戦者に
東京女子プロレスらしい出自の選手が、東京女子プロレスらしい試合に勝ってベルトを巻いた。初防衛戦は2月11日の後楽園。2カ月連続の“聖地”開催は団体史上初でもある。新人だけで始まった団体が、それだけの人気を獲得したのだ。
挑戦者は渡辺未詩。らくと同じアップアップガールズ(プロレス)のメンバーで、プロレスを始めたのは、それがグループとして必須の活動だったからだ。プロレスを始めるまで、知っている技は「テレビでまゆゆ(渡辺麻友)がかけられてた」ジャイアントスイングだけだった。今はそれが得意技になっている。
未詩もまた東京女子プロレスらしい選手で、しかもリカのパートナーだ。11月までは2人でタッグベルトを巻いていた。
「タッグを組んでたくさん成長できました。だから今度はリカさんを超えたい。闘うことで成長したい」
試合が正式に決定すると、未詩は記者会見で新人時代のことを振り返っている。
「以前、記者会見でリカさんが『アプガ(プロレス)は恵まれた環境に甘えてるんじゃないか』と言っていたことがあって。その言葉がもの凄く響きました。(プロレスを知らずに入門した)自分がここまでプロレスに向き合えたのは、リカさんの存在が大きいです」
リカに「甘えている」と言われた夜、未詩はインターネット動画の個人配信で長時間にわたり泣きながら「アイドルもプロレスも本当に全力でやってるんです」と訴えた。
尊敬する先輩だからこそ言われて悔しいことがある。自分を成長させてくれたタッグパートナーだからこそ勝ちたい。ここにもまた、東京女子プロレスの“リアル”がある。
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