スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
ラグビー五郎丸歩の本音が見えた引退会見 “人を生かす”アタックと震えるほどのタックルをもう一度
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKyodo News
posted2020/12/21 11:15
現役引退を表明した五郎丸歩。ラストシーズンに向けてコンディションは良好のようだ
主役になったトライと震えたタックル
早大時代、彼のプレーで好きだったのは「オフロードパス」である。相手と接触しつつ、右手のアンダーハンドから「ひょい」という感じでパスを出す。いまではワールドレベルでよく見られるプレーだが、五郎丸は早大時代からよく使っていた。
ただし、日本代表ではほとんど見ず、それについて質問すると、「だって、大学生相手と、W杯で戦う相手ではレベルが違いすぎますから。あんな軽いプレーしたら、エディー(・ジョーンズ)さんに怒られますよ」と笑っていた。
アタックでは人を生かすのが上手かったのだが、2015年のW杯では自分が主役になった。
南アフリカ戦の68分、ラインアウトから「府中12内」と呼ばれる日和佐→立川→小野→松島→五郎丸と渡った相手ディフェンスに指一本触らせなかったトライでは、五郎丸がフィニッシャーとなった。
日本のラグビー史上でも、ベスト5に入るトライだろう。引き立て役が主役になった瞬間で、その後のブームを考えると、「持ってる男」としか言いようがなかった。本人がそれを望んでいなかったにもかかわらずーー。
さらに、スコットランド戦では前半最後のプレーで、「強烈」としかいいようがないトライセービングタックルを見せた。このとき、私は記者席に座っていたが、あまりの迫力に「うわっ」と声が漏れた。あの瞬間を思い出すと、今も震えがくる。
フィジカルの充実がもたらした素晴らしいタックルであり、2015年のW杯でのパフォーマンスは、間違いなく彼のキャリア最高のものだった。
「匿名性」を謳歌していた
W杯後の狂騒曲のなかで、五郎丸はオーストラリア、そしてフランスのトゥーロン(ミュージカル『レ・ミゼラブル』のオープニングアクトの場所でもある)でプレーしたが、個人的には、2016年にフランスで取材したことが忘れられない。
彼はとてもリラックスしていて、自らの「匿名性」を謳歌していた(日本人メジャーリーガーも同じような喜びをアメリカで味わっていた)。あの時間は、とても貴重なものだっただろう。
トゥーロンは世界のスターが集まるクラブだったこともあり、きっといろいろな知見を得たのだと思う。フランスは、彼を再生させた。