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ラグビー五郎丸歩の本音が見えた引退会見 “人を生かす”アタックと震えるほどのタックルをもう一度
posted2020/12/21 11:15
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kyodo News
実直で、飾らない会見だった。
コメントをサービス精神で「盛る」ようなこともしない。いつも通りの「五郎さん」だった。
トップリーグ、ヤマハ発動機ジュビロの五郎丸歩が、今季限りでの引退を発表した。「22歳の時から、35歳で引退すると決めていました」と話したのには、ちょっと驚いた。これから社会人としてのスタートというときに、フィニッシュ地点のイメージをしている選手はラグビーに限らずあまり聞いたことがない。
シーズン前に引退を発表するケースはアメリカのプロスポーツでは珍しくはないが、日本ではレアケースだ。会見で五郎丸はその理由をこう説明した。
「もしかしたら、途中で中断してしまうかもしれないこのシーズン前に、しっかりとした形でごあいさつさせていただき、そして自分のラストシーズンを迎えることが皆さまに対しての、私が考える礼儀であるというふうに考え、この会見を承諾していただいたといった形になります」
たしかに、新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては中断もあり得るわけで、そうした意味で、このタイミングでの会見は適切だったと思う。
目立つことを好まない人
取材してきた印象で言えば、大学時代からピッチの外では目立つことを好まない人だった。
ただし、2015年のW杯で五郎丸の人生は大きく変わった。「五郎丸ポーズ」は一世を風靡したが、当時のブームを会見でこう振り返った。
「ラグビーをずっと続けてきた人間としましては、やはりひとりにフォーカスされることに対しての違和感というのは、ありました。ラグビーというものは誰かヒーローが出るわけでもなく、チームみんなが自分の仕事を全うした上で、勝利というものが見える競技性を持っています。そういったものを私は3歳からずっと経験していますので、私ひとり人にフォーカスが当たるといったことに関しては、非常に違和感はありました」
それでも、日本ではラグビーがマイナー競技である以上、自分の仕事としてその役割を引き受けたという。「最初は少しきつかったですけどね」という言葉には本音が垣間見えた。
選手としてはポーズに注目が集まりすぎて、彼のプレースタイルについての言及が少なくなってしまったのは、少々、残念である。ブームとは、そういうものなのだろう。