スポーツ物見遊山BACK NUMBER
実は山田太郎は「ドカベン」と呼ばれてない? 野球観を変えた水島新司の功績を振り返る
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byJIJI PRESS
posted2020/12/19 17:03
46年続いた野球漫画『ドカベン』の連載が最終回を迎えた「週刊少年チャンピオン」特別号
当時では驚異の単行本巻数
さらにもう1つ、水島作品といえば単行本の巻数が多いことでも有名。新聞連載の四コマ作品である『サザエさん』(姉妹社版全68巻=長谷川町子)は、昔も今も別格扱いではあったが、連続モノであるドカベン単行本の全48巻は当時、驚異の巻数だった。
現在でこそ、巻数が100を超えるコミックも珍しくないが、昭和56年春のドカベン連載終了時、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(ジャンプコミックス全200巻=秋本治)はまだ16巻程度、少女漫画の金字塔『ガラスの仮面』(花とゆめコミックスで現在全49巻=美内すずえ)も20巻に達していなかった。『ドカベン』と巻数を張り合っていたのは、週刊少年キング(少年画報社)で、ともに昭和54年に連載終了した『ワイルド7』(望月三起也)の全48巻や、『サイクル野郎』(荘司としお)の全37巻(ともにヒットコミックス)ぐらいだった記憶がある。
その時点で、まさかドカベンが『大甲子園』(全26巻)、『~プロ野球編』(全52巻)、『~スーパースターズ編』(全45巻)、『~ドリームトーナメント編』(全34巻)とまだまだ続き、21世紀に入ってもなお、壮大なる“ドカベン・サーガ”を形成し続けることになるとは夢にも思っていなかった。
電子書籍化を望む声は多い
ドカベンだけでも計205冊、『あぶさん』は全107冊……。水島作品とともに人生を歩んできた読者ならば、誰しもが「もう一度、読み直してみたい」と思うのは当然。しか~し、あまりの巻数の多さに、よほどの覚悟がないと手が出せなくなっているのも事実。
これは金銭的なモノよりも、日本の住宅事情による理由が大きい。これら膨大な作品を保管しておく場所の確保が……無理。ドカベンに熱中していたのは現在、妻や子ども、家族の厳しい視線の中に生きる中年男性が多いのである。場所をとらない電子書籍こそが、ドカベン・サーガ再読に最適なはずなのだが、現在、水島作品は電子書籍化されていない……。
御年81歳、残念だが水島先生の引退宣言は受け止めるしかない。しかし、漫画による野球文化伝承のため、21世紀の少年少女たちに水島ワールドの洗礼を浴びせ、啓蒙するために、早急に作品の電子書籍化を認めて欲しいと願うのは、筆者だけではないだろう。