プレミアリーグの時間BACK NUMBER
絶不調アーセナルと週給4900万円の“生きた化石”エジル 古典的ナンバー10にもう出番はないのか
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/12/15 17:01
エジルのあの美しいパスの軌道を、エミレーツスタジアムで見る日はもうやってこないのか
トッテナム戦でアルテタは、R・ウィーン戦でも採用した、アレクサンドル・ラカゼットをオーバメヤンの背後に置く4-4-1-1で試合に臨んでいた。トップ下が天職とも言うべきエジルがいるという考え方もあるだろう。しかし、長期展望でアーセナル復興に取り組んでいる38歳の指揮官が、後半戦でエジル登録に走ることはないと思われる。クラブも、週給換算で推定35万ポンド(約4900万円)のサラリーを受け取っている選手の登録外を認めているのだから、アルテタが選んだ方向性に異論はないようだ。
ペップと同じスタイルを標榜している中で
巷では、ELで6戦全勝の32強入りでも、リーグでの下位低迷に「解任」の二文字が囁かれ始めたが、リスクは承知で抜擢したはずの青年監督への信頼を貫くべきだ。
監督としてのアルテタが、同じスペイン人でバルセロナ時代の先輩でもあり、マンチェスター・シティのチームスタッフ入りまでして学んだ、ペップ・グアルディオラに通じるスタイルを志向していることは間違いない。そのグアルディオラのマンCにも、ケビン・デブライネというワールドクラスのチャンスメイカーがいる。だが、“プレッシング・ゲームメイカー”とでも表現すべき、ボール奪取とトランジションでの効き目の大きさが、アーセナルで登録外のゲームメイカーとは絶対的に違う。
古典的ナンバー10の新天地はトルコかMLSか
言ってみれば、エジルは古典的な「ナンバー10」の貴重な生き残りだ。守備面でのポジショニングなどには縛られず、感性の赴くままに動きながら決定機の創出を狙い続ける、キラーパスのスペシャリストのような“特別種”。時代遅れの恐竜とまで言うつもりはないが、アーセナルもエジルの生存に適した環境ではなくなってしまった。サッカー界で進む選手の「総アスリート化」を危惧する、ベンゲルが指揮を執っていた当時のアーセナルとは違うのだ。
ドイツで生まれた第3世代として血縁を持つトルコからはフェネルバフチェ、他に、あらゆる面で新天地となり得るアメリカのMLS勢からの誘いも報じられているが、来夏には移籍金不要の大物として、まだビッグクラブから声が掛かる可能性もある。
いずれにしても、エミレーツ・スタジアムで、ガナーサウルスも着ている、胸に大砲が描かれたエンブレムのある赤白ユニフォームを身にまとったエジルの姿を目にしたければ、もはや、スタジアム内にある『アーセナル・ミュージアム』の展示物で我慢するしかなさそうだ。