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絶不調アーセナルと週給4900万円の“生きた化石”エジル 古典的ナンバー10にもう出番はないのか
 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2020/12/15 17:01

絶不調アーセナルと週給4900万円の“生きた化石”エジル 古典的ナンバー10にもう出番はないのか<Number Web> photograph by Getty Images

エジルのあの美しいパスの軌道を、エミレーツスタジアムで見る日はもうやってこないのか

 アルテタは、システムも試行錯誤を繰り返してきた。就任当初は4-2-3-1が基本。机上の理論ではエジルがトップ下に綺麗にはまるが、昨季終盤のリーグ再開後には4-3-3も試され、3-4-3の兆候も見られた。ただ高い位置からのプレッシングを前提とするスタイルも相まって、エジルのようにチャンスメイクに専念したいアーティスト向きのシステムではない。

 3-4-3の中で居場所がなくなっていた昨季最終戦のFAカップ決勝と、今季開幕前に現役プレミア王者と対戦したコミュニティ・シールドでは、それぞれチェルシーとリバプールからの勝利という結果も伴い、エジル不在を問題視する声は聞かれなかった。

 また、エジルがスタメンで精彩を欠いた試合があったことも事実だ。パフォーマンスが振るわない試合は誰にでもあるが、エジルは、ここ一番で頼りにならないというイメージが定着して久しい。2013年のレアル・マドリーからの移籍が、当時のアーセン・ベンゲル体制下では異例にして待望の「トップクラスの既製品」購入だったことから、多大な期待が寄せられていたこともあるのだろう。プレミアでアシスト王を争うシーズンを送っていても、国内外でのビッグゲームで影響力を示すことができなければ、観る者に物足りない印象を与えることになってしまう。

エジルが出た大一番は2019年のEL決勝までさかのぼる

 エジルが出場した前回のビッグゲームは、2019年5月のEL決勝(1-4)までさかのぼる。一時帰国中だった筆者は、都内のスポーツ・バーで催されたチェルシー・サポーターズ・クラブ東京の観戦会に同席させてもらっていたのだが、残り15分ほどでベンチに下げられたエジルは、存在感が皆無に等しかったと言わざるを得ない。ロンドンの自宅に戻ってから録画を見直し、両軍に在籍した縁で『BTスポーツ』のゲスト解説に招かれていたセスク・ファブレガスのエジル評に妙に納得したことも覚えている。

 大一番で違いを見せる力を「持っているか、いないかの世界」と説明したセスクは、「レアルのようなチームでは周りにも超一流が揃っているだろうけど、そうではない環境では自力で周囲を引っ張らないといけない。メストには、それがないような気がする」と言っていた。

 過去3シーズン連続でCL出場圏外に終わっているアーセナルは、セスクの言う「そうではない環境」のチームに相当する。辛口で知られるグレアム・スーネスに言わせれば、主砲のピエール=エメリク・オーバメヤンがリーグ戦2得点と低調な今季は、「GKのベルント・レノぐらいしかトッテナムのスタメンには入れない」戦力レベル。牽引する存在としては心許ないエジルが、戦術的にもフィットさせにくいと判断したのであれば、たとえワールドクラスの実力者でも固執はせず、より自然なチーム作りを優先する監督の考え方は間違ってはいない。

【次ページ】 ペップと同じスタイルを標榜している中で

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