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甲子園の真逆をやるべき? アメリカから見た日本スポーツの育成の問題点「10点差で勝ったら怒られる」 

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高木遊

高木遊Yu Takagi

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photograph byHiroki Wakabayashi

posted2020/12/10 17:00

甲子園の真逆をやるべき? アメリカから見た日本スポーツの育成の問題点「10点差で勝ったら怒られる」<Number Web> photograph by Hiroki Wakabayashi

アメリカでアイスホッケーの育成年代の指導に携わっている若林弘紀氏(中央)。世界から見た日本の現状は「異質」だと語った

10点差をつけて勝ったら怒られる?

――現在、日本の高校の団体スポーツではインターハイも甲子園もほぼすべてで予選から本選までトーナメント方式が採用されている。当然その中では、特に都道府県予選や全国大会序盤では大差の試合も少なくありません。

 そもそも(スポーツは)“競り合うこと”を楽しむものであって、大勝することの価値を求めるものではありません。また、高い費用をかけて大会の会場へ行き、1回負けたら帰ってくるなんて、費用対効果が低すぎますね。

――欧米ではそういうケースはありませんか?

 もしトーナメントすべての試合を10点差で勝って優勝したら、そのチームの監督はクラブに戻った後に親御さんや関係者から怒られますよ。「全然つまらない」「なんでそんな大会出たんだ!」と。逆に全試合大敗しても同じ。何が問題かというと、僅差の試合に出て、勝ったり負けたりを経験することがスポーツ本来の在り方であり、大味な試合ばかりでは子どもたちの能力は上がらないということです。

――いわゆるトーナメント制の弊害ですね。他にもどんな点が挙げられるでしょうか?

 トーナメント形式の戦いは毎試合負けられない状況に置かれるため、たくさんの補欠選手を抱えざるを得ません。ピッチャーでもGKでも2番手以降を使えず、彼らが成長する仕組みがありません。コーチ(指導者)としても、“いろいろな選手をやりくりして勝つ”という戦略をまったく勉強しないまま、上手い選手を出すという作戦に行きついてしまう。これは作戦とは言えないですし、勝てたのは(良い指導をしたのではなく)良い選手を集めたからです。

幼少期の全国大会は必要ない?

――高校生どころか、競技をし始めたばかりの小さな子どもたちでも、全国大会に進むためにはトーナメントを勝ち抜く必要があるケースが多いです。幼少期における全国大会の必要性についてどのようにお考えですか?

 すべて大人のせいなのですが、子どもたちがそこまでして日本一を目指す必要がどこにあるのか?と思います。勝利ばかりを追求する結果、育成が疎かになり、試合に出られる選手が少なくなるのであれば、ユーススポーツとしては意味を成していない。

 アメリカでは、高校野球の大会もアイスホッケーの12歳までの大会も、州大会までしかありません(高校野球は州によって別地区と対戦する例はあり)。ちなみにアイスホッケーは8歳以下の大会では優勝が決まる大会すら開催を禁止しています。練習試合のような形式をとって、試合の勝敗をつけない仕組みになっています。なぜかと言うと、その歳の子どもたちはどちらが勝ったのかを覚えていないからだそうです。

――確かに小学生の頃にした試合のスコアなんて細かくは覚えていませんね。

 何対何ということを覚えていないですから“それ(試合の勝敗)を誰が気にしているの?”という話です。“ここで勝たなきゃ”と言っているのは、大人だけなんです。

――アメリカのような事例は他の国にもあるんでしょうか?

 もう少しそれを推し進めたのが、北欧です。スウェーデンのアイスホッケーは12歳以下の大会でスコアをつけることはあっても、それを発表することは禁止です。それはやはり“大人が狂うから”。最近有名になった話ですが、ノルウェーのスポーツ全体が、13歳まではランキングをつけることを禁止しています。ノルディックスキーがすごく盛んな国で、人口当たりで一番多くのメダルを獲っている。それでも13歳までは、タイムをとっても、それをランクとして発表することを国で禁止しています。

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若林弘紀

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