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「使い勝手のいい選手」を卒業…フロンターレ登里享平が継承する“憲剛イズム”とは
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroki Watanabe/Getty Images
posted2020/12/05 17:01
「憲剛さんがいなくなった後を想像してみたら……」と率直な心境を明かした登里(右)
一瞬で頭が真っ白になった
10月下旬のある日、クラブハウスで中村から呼ばれた。
「俺、今年で引退するから」
一瞬で頭が真っ白になった。復帰してすぐにゴールも決めていたし、引退の報告とは微塵も思っていなかったからだ。
「まだまだ一緒にサッカーをやれるって勝手に思い込んでいました。ケガから戻ってきてプレーも凄かったし、引退だなんて……。憲剛さんがいなくなった後を想像してみたら、めっちゃ寂しい気持ちになったことを覚えています」
ピッチ外では中村からは全幅の信頼を置かれていた。シーズンごとに変えていくゴールパフォーマンスは「みんなで盛り上がれるもの」と登里が決めていた。そしてピッチ内でも。プレーの話をするのも、背伸びしなくて良くなった。
いろんなことが分かってきたからこそ、聞きたいこと、教えてもらいたいことがあった。それなのに、ピッチから去っていく。
憲剛イズムを受け継ぐ後輩たちの役目
しかし一方で、それを受け入れなければならないことも理解していた。心から安心して引退してもらうことが、憲剛イズムを受け継ぐ後輩たちの役目だと考えた。独走しているとはいえ、強い形を示して優勝しなければならなかった。
2位ガンバを寄せ付けず、攻守に圧倒しての優勝。
90分フルに働いた登里は、ピッチ上で二度中村と抱き合っていた。どこか安堵するような姿も垣間見られた。
中村が抜ければフロンターレ歴は登里が一番長くなる。
偉大な背番号14が背負ってきた役割を担っていく立場にもなってくる。
だがみんなで一緒になって乗り越えていこうとするのがフロンターレの良さ。彼は明るい表情をつくってこう言った。