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大人気バレー漫画『ハイキュー!!』は、なぜ“立体的”に見えるのか? 「他で見たことない!」3つの表現法 

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黒木貴啓(マンガナイト)

黒木貴啓(マンガナイト)Takahiro Kuroki

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photograph by©古舘春一/集英社

posted2020/11/04 11:01

大人気バレー漫画『ハイキュー!!』は、なぜ“立体的”に見えるのか? 「他で見たことない!」3つの表現法<Number Web> photograph by ©古舘春一/集英社

最終巻となる45巻が11月4日に発売された『ハイキュー!!』より

 16巻でも、烏野はここぞという場面で敵陣の横断幕を背負う。

 春高バレー県予選の準決勝、青葉城西戦。ジャンプフローターサーブ(ブレ球)を練習してきた1年生・山口忠がファイナルセットの劣勢でピンチサーバーとして投入された場面だ。

 前回青葉城西と戦ったとき、緊張のあまり山口のサーブは1本目でネットに突き刺さった。その後もなかなか結果を出せず、地道に練習を重ねて迎えた青葉城西とのリベンジ戦。大きな重圧を跳ね除けて見事なジャンプフローターサーブを決め、烏野の武田監督に「殻を破る一本」、そして烏養繋心コーチに「反撃の狼煙の一本」と言わしめた後、山口の背後には敵陣の横断幕「コートを制す」が広がる。

 これは青葉城西・及川徹が、強烈なサービスエースで敵陣を黙らし、個々の能力に合わせて最高のトスを送るたびに背景に描かれてき横断幕だ。最強のライバルでありエースのコピーを山口が背負った瞬間。ピンチサーバーというボジション、そしてワンプレーのために地道な努力を続けてきた選手への、作者からの最高のエールである。

 バスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』(井上雄彦)なら、インターハイ常連・海南大附属高校が「常勝」を掲げるなど、横断幕をチームの性質に結びつける表現は他作品にも見られた。ただ、プレイヤーの特徴や心理を別チームの横断幕で代弁するのは、古舘の大発明だろう。

「さぁ今日もバレーボールは面白いと証明しよう」

「表情のある手」「ベクトル描き文字」「横断幕の拡張」という3つが集大成を表すのが最終45巻だ。高校時代に競い合った選手がプロとなり、同じコートに入り乱れて圧巻のプレーを披露していくが、比例するかのように表現も進化していく。

 サーブトスを放ったはずなのに、ある者へ向けて、敬意と感謝を込めて手を差し伸べているように描かれる影山の右手。プレイヤーたちの“妖怪ぶり”を讃える、ひらがなに変化した描き文字。稲荷崎高校の横断幕「思い出なんかいらん」が、ネットとシンクロしてしまう場面……。スポーツ漫画史に残る作品と言っても過言ではない。

「さぁ 今日も バレーボールは面白いと 証明しよう」。

 最終話のこのセリフは作者自身が目標としても掲げてきたものだったが(アシックス公式サイトインタビューより)、毎週毎週迫力を増す表現の追求で、見事に漫画という平面からこの目標を果たし切った。古舘春一という人間は、漫画家としても、バレーボールの魅力を伝える挑戦においても、間違いなく超一流のアスリートなのである。

▼参考文献
『ハイキュー!!』(古舘春一/集英社)
『ジャンプ流! vol.9 まるごと古舘春一』(集英社)
『ハイキュー!! コンプリートガイドブック 排球本!』(古舘春一/集英社)
『ジャンプSQ.マンガゼミナール MANZEMI』(喜多野土竜、斉藤むねお/集英社)
『マンガの遺伝子』(斎藤宣彦/講談社)
バレーボールマガジン「ハイキュー!! 古舘春一先生インタビュー」(2014-04-03)http://vbm.link/5437/

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