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大人気バレー漫画『ハイキュー!!』は、なぜ“立体的”に見えるのか? 「他で見たことない!」3つの表現法
text by
黒木貴啓(マンガナイト)Takahiro Kuroki
photograph by©古舘春一/集英社
posted2020/11/04 11:01
最終巻となる45巻が11月4日に発売された『ハイキュー!!』より
かれこれ20年ほどジャンプを毎週欠かさず読んでいるが、この「キュ」が目に飛び込んできたときは「なんだこの不思議な文字は?」としばらくページをめくれなかった。その視覚的な衝撃は、「新しい攻撃の型を披露した」烏野の進化と、バレーがいかに頭脳的で駆け引きの多いスポーツなのかを体感させてくれた。
『ハイキュー!!』が8年半の連載で見せた独創的な描き文字は数え切れず、これをつまみに余裕で一晩飲み明かせる。
「“文字”へのこだわりは、確実に父から影響を受けているのだと思います」と、古舘はインタビューで語っている(『ジャンプ流』より)。中学時代に父からもらったレタリングの本で練習し、「中学生の手書き新聞コンクール的なもの」で賞をもらった経験があるという。
文字への執着はジャンプでバレー漫画を描く夢に結びつき、画期的な描き文字がいくつも生まれ続けたのだ。
その3)選手の後ろにさっと現れる「横断幕」
主人公らの烏野高校は「飛べ」、宿敵の音駒高校は「繋げ」、日本一のスパイカーを擁する白鳥沢学園高校は「強者であれ」。会場の観客席から垂れ下がっている、各チームのスローガンを書いた横断幕は、バレーに限らず、各スポーツの大会で目にする。
古舘はこの横断幕をプレーの背景に忍ばせ、ときには大々的に物語とリンクさせることで、裏側にある選手たちの想いやバックグラウンドを強調してきた。
最初にその表現が爆発したのは、烏野の春高バレー県予選3回戦(13巻)。条善寺高校はごく最近まで自陣の横断幕「質実剛健」にふさわしい、基本に忠実で堅実なプレーを心がけるチームだった。指導者の交代に伴い「常に本気で遊ぶ」をモットーに自由奔放なスタイルに変化。が、烏野との試合では発想に基礎が追いつかずイマイチ楽しめない。
一方の烏野もなかなか変人速攻がうまく決められず、崩れたスキを狙われてしまうが、キャプテン・澤村大地が好レシーブで流れを変える。影山・日向を力みすぎだとたしなめつつ、「俺にはド派手なプレーは無理だけど“土台”なら作ってやれる」「まぁ存分にやんなさいよ」と笑いかける。澤村の後ろには自陣の横断幕「飛べ」ではなく、「質実剛健」が広がるのだった。
3年生に上がるまでみっちり基本を磨いてきた澤村という“大地”があるから、日向らはスローガン通り思いっきり「飛ぶ」ことができる。試合を楽しむには基礎が必要だという理を、相手チームと対比させるだけでなく、その横断幕を使って表現した名場面である。