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大人気バレー漫画『ハイキュー!!』は、なぜ“立体的”に見えるのか? 「他で見たことない!」3つの表現法
text by
黒木貴啓(マンガナイト)Takahiro Kuroki
photograph by©古舘春一/集英社
posted2020/11/04 11:01
最終巻となる45巻が11月4日に発売された『ハイキュー!!』より
実はこれ、漫画で描くときにやっかいな要素でもある。人間の身体描写において、手はトップレベルで難しい部位なのだ。漫画の作画入門書『ジャンプSQ.マンガゼミナール MANZEMI』(集英社)にも「何十年も描いているプロでも手は難しい」という記述があるほどだ。
さらに、バレーボールとなると描かなければならない手の数も膨大になってくる。週刊連載だったらなおさらで、多くのバレーボール漫画が、スピード表現としてあえて手をブレさせたり、影を省略したりと、抽象化・パターン化させてきた。
なのに古舘はトス一つとっても、先にあげたように「構える」「受ける」「放つ」3種類の動作をしっかり描き分ける。レシーブだって、腕で面を作るために組んだ両手と、球の勢いを押し殺して離れかかった両手、全然違う。手だけで球を受ける前後どちらなのか察しがついてしまうほどだ。
さらにコート上の千手を、360度さまざまな視点から描く。
『ハイキュー!!』は“手が語る漫画”である
本作唯一の“漫画らしい必殺技”ともいえる日向と影山の変人速攻が初めて成功するシーン(2巻8話)。影山がトスする瞬間、ボールを受け止めた姿を真正面から捉える。と同時に背景のコマでは、角度を微調整している両手指を横からどアップで描く。次ページではトスを放って反り返った両手を、スパイクを打つ日向の視点から俯瞰的に捉える。
必殺技に迫力を出そうと、高速のトス&スパイクを複数の視点から切り取る。そのため面倒くさい手を数多く、さまざまなアングルから描いてみせているのだ。
1巻で影山のトスは13コマ描かれているのに対し、この1話だけで11コマも登場するが、同じ「手の形×アングル」は1つとしてない。圧倒的な手の描き分けで、変人速攻をスピーディかつスタイリッシュに見せている。
さらには「変人速攻を防いでしまうブロック」など、プレーが迫力を増すほど、線が太く、手に落ちる影も濃くなる。影の線も、動作の方向にそろえてしっかり描かれ、プレーのスピード感が強調されているのだ。
こうなってくると『ハイキュー!!』は“手が語る漫画”と言えるかもしれない。日向が助走をつけながら大きく後ろへ振った手が、読者に向けてローアングルからどアップでくっきり、濃い影をたたえながら描かれていると、「これからすげぇ跳んですげぇスパイクを放ちます」と語ってしまっている。
形、角度、影……テレビ中継でもアニメでも瞬間的にしか見えない手を、読者の目がしっかり留まる漫画というメディアで、さまざまな構図からごまかさず描ききる。そのバラエティ豊かな手の表情は、コート外からではわからないバレーボールの複雑なプレー、迫力を視覚的に知ってもらおうと、古舘が筆先で面倒臭がらずに挑み続けた結果なのだ。